ディスプレイの向こうには人がいる

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ディスプレイの向こうには人がいる

 今や、アニメは朝夕のゴールデンタイム以外にも深夜に放送されている。 所謂、深夜番組に類する深夜アニメのことである。 SNSの普及で視聴者がリアルタイムで感想を言い合い、共有出来るようになった昨今、深夜にもかかわらずにSNS上では「アニメ実況」たるものが行われている。  草木も眠る丑三つ時、一人の青年がアニメ実況を行っていた。ノートパソコンでSNSを開き、横目で深夜アニメを放送しているテレビを見ながらのものである。 青年はそれが、毎日の日課であった。  深夜アニメの展開が最高潮(クライマックス)を迎えた。そのアニメはプロレスアニメ、主人公が敵にコブラツイストを極めたのである。コブラツイストと言えば、言わずと知れたフィニッシュ・ホールド。全国のアニメ実況者達は血肉沸き踊り、興奮の坩堝へと入った! 皆、一斉に思いの丈をパソコンやスマホのキーボートに打ち込んでコメントとして発言を行う。 〈コブラツイストキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!〉 〈このままアバラ折っちまえ!〉 〈頑張れー! このままやっちまえ!〉 〈フィニッシュ!〉 などと言った言葉でSNSが埋まっていく。SNSのワードランキングはこの一瞬で「コブラツイスト」が一位に急浮上した。 青年も〈あのコブラツイストは完璧に極まってるから外れないな( -`д-´)キリッ〉と打ち込み、今深夜アニメを観ている皆と一緒に盛り上がるのであった。 すると、そのコメントに返信が入ってきた。 〈いや、両肩がロックされてない。胸も張ってないし、リアルだったら外される〉と、言った茶々を入れるものだった。 ああ、こんな興ざめなコメントしてくるヤツがいるのか…… 青年はこうして煽られることに耐性がないのか、反論のコメントを直様に打ち込んだ。 〈アニメなんだからリアルの話をしなくてもいいのに〉対面で会話をしていれば「アニメでリアルの話持ち出してんじゃねーよ!」と煽るように述べているのだが、SNS上はインターネットである故にネチケット(ネットワークエチケット)は守ることで無用な争いを避けられると高校在学時の情報技術の授業で学んだことを、大学生になった今になっても守っているために、このような穏やかな言い方に留めているのであった。 すると、返信が来た。
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