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「どう? 怠いでしょ? この仕事?」
「い、いえ……」
「そうそう、ネット見るだけってのもストレス溜まるでしょ? SNS上の情報集めるのも仕事だよ?」
青年はSNSを開いた。会社から教えられたアカウントでログインしようとしたのだが、既に別の名前でログインはされていた。その名前を見て青年は驚いた。
「Botくん……?」
なんと、あのBotくんのアカウントがあったのだ。それを見た上司が「あーあー」と納得したように頷いた。
「ああ、前任者くんのアカウントがそのまま残ってたね」
「これって……」
「ああ、SNS上で情報集めるにもアカウントは必要でしょ? SNSってのはアカウント無しでも閲覧だけは出来るけど、コメントを打ち込んでコミュニケーションをとることは出来ないでしょ?」
「はぁ……」
「だからね、適当なメールアドレスをSNSにログイン出来るアカウントにしたってワケ。多分、捨てアド(捨てメールアドレス、放棄・通報・削除を前提としたメールアドレスのこと)で捨てアカウント(捨てアカウント、放棄・通報・削除を前提としたアカウントのこと)を作ったんだね」
「Botくんは捨てアカウントだった……」
「企業のSNS調査アカウントだって発覚そうになったらアカウントごと削除。自分のメールアドレスでもアカウントでも無いんだし後腐れないでしょ?」
「しかし、なんでBotくんなんて名前なんでしょうね?」
「ああ、前任者が坊戸くんって名前だったんだ。物凄く優秀な子で、将来の重役とも言われていたんだ。でも、4年前に派遣社員と契約社員の待遇改善の件でお偉方と揉めてね…… ここに左遷ってワケ」
「待遇改善?」
「派遣社員も契約社員も食堂や自動販売機が使えなかったし、社員証もなかったし、備品代も交通費も自腹、任せられる仕事も雑用ばかり、酷いと名前で呼ばれなかったんだよ『派遣さん』『契約社員さん』みたいな感じで」
青年がそれを聞いた瞬間、違和感を覚えた。青年がこの会社に入社した時には「正社員」「派遣社員」「契約社員」皆垣根なく働いており、今、上司が言ったようなことは全くなかったのだ。首を傾げていると、上司はその答えを言ってのけた。
「働き方改革? そういうのがあって政府の方から監査が入るようになったんだ。これでやっとウチの会社は改善したんだよ。坊戸くんの言う事は正しかったんだよ。彼は行動が早すぎたんだよ」
「それなら、このような閑職から戻ることが出来るのでは?」
上司は首を横に振った。
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