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残業だと言ってマンガ喫茶に行っている件に関しては、これまたマンガ喫茶のパソコンを使って求人サイトを覗いているようだった。これは本格的に転職を考えている。
しかし、『転職』という言葉は間違っているということが分かった。どういうことかというと、スーツに着替えて「行ってきます」と家を出た夫は、公園のベンチに座って鳩にエサをあげているのだ。最初見た時は夢を見ているのかと思った。まさか自分の夫がドラマやマンガで見るような『虚空を見つめるサラリーマン』と化しているなんて誰が思うだろう。背中には哀愁を漂わせしきりにため息をついている。
夫のそんな姿を見てしまった世の中の妻はどのような反応をするのだろう。例として私は「なにしてるの?」などと声を掛けたりはしなかった。一週間きっちり観察する。彼の真意を暴くために。
でもまぁ割とすぐに理由は分かった。どうやら会社をクビになったらしい。上司と諍いを起こしたわけでも、部下にパワハラやセクハラをしたわけでもない。ただ仕事ができなかったのだ。役に立たない平社員は迷わずに手放せ——約十年も働かせてくれたのに、急に見捨るなんてある意味ブラックな企業である。
ということで、転職先を探していたわけではなかった。就職先を探していたのだ。
さらに調べていくにつれ、夫のポンコツぶりが浮き彫りになった。時間や納期に対してルーズであったり、ホウレンソウができなかったり、同じミスを繰り返したり、挙句の果てにはしょっちゅうサボっているらしいのだ。それで約十年も雇ってくれたのだから、逆に感謝しないといけない気がした。同僚曰く、しいて褒めるところを上げるとするならば、『コミュニケーション能力が高い』とのことだった。まぁ旅行先で見ず知らずの人に話しかけてオススメのお店を聞き出したりだとか、躊躇せずにできる点に関しては確かに褒めるべき点なのかもしれない。
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