伝えたかったこと、伝えられなかったもの

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 チャイムと同時に鞄を持って、私は昼休みの学校をうろつきはじめた。一人になれる場所を探していた。誰もいない、一人きりになれる場所を。  別に教室にいたところで一人であることに変わりはないが、あそこはダメだ。私が一人なのに、一人じゃないクラスメイト達がいるから。  この日は別館の裏、密林みたいに茂った庭木と校舎とのあいだが私の居場所だった。  通用口前の階段に腰をおろし、お昼ご飯よりも先に取り出した携帯でSNSを開く。  メッセージがきていなかったらどうしよう。この瞬間、私の胸はいつも不安で高鳴った。 ミナミ【サキちゃんはもうお昼食べたかな? 私はもう済ませました。】  あった。一件だけの新着メッセ―ジ。それでも、いまの私にとっては一番大切なものだった。  ほっと胸を撫でおろしながら、私は返事を書きはじめた。無意識のうちに、口元が緩んでいた。 サキ【これから食べるところ。コンビニでパン買ったんだけど、あんまり美味しくなさそうだよぉ……ミナミちゃんは何食べたの?】 ミナミ【煮物とお吸い物とね、あとお粥だったよ。お祖母様のことで毎日大変そうだね。】 サキ【今日も和食だったんだ。いつもながら古風だねぇ(笑)うん、大変だけど仕方ないかな。でも、ミナミちゃんが話し相手になってくれるから大丈夫だよ!】 ミナミ【よかった。私もサキちゃんがいてくれるから頑張れるよ。それにサキちゃん、お友達が沢山いるもんね。今日も付き合わせちゃってごめんね。みんなでお昼食べてるでしょう?】 サキ【ううん、全然平気だよ! でも、そろそろお昼に戻るね!】  それから別れの挨拶を交わし、私は携帯をしまった。当然、周りには誰もいないし、誰かと待ち合わせもしていない。  私は鞄からパンを取り出すと、口に無理矢理押しこむようにして食事をはじめた。
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