伝えたかったこと、伝えられなかったもの

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 私がSNSの<QuicQ>(クイック)をはじめたのは四か月前。元々いた学校から転校するのを機に、友達の佳奈(かな)が勧めてくれたのがきっかけだった。  離れていても、これでいつでも連絡や近況報告ができる。そんな持ちかけで登録をしたものの、いつまで経っても佳奈からのフォロー申請はこなかった。最初のうちは忙しいのだろうと思って私も気にとめていなかったが、こちらから彼女に連絡してみてもまったく反応がなかった。  見捨てられたのだと直感した。  佳奈以外のアカウントからもフォロワー申請が届いたが、承諾する気にはなれなかった。  失意と疑念のなか、半ば放置していた<QuicQ>に一件の申請に目が止まったのは、それから一か月後だった。  はじめこそ見ず知らずの相手に警戒したものの、次第に興味がわいて返信をしてみて、気がつけば<QuicQ>で……いや、新天地で唯一の友達になっていた。  それがミナミだった。  ミナミは隣町の学校に通う高校一年生で、友達を作りたくて<QuicQ>をはじめたのだという。  他の申請と違って私が興味を惹かれた理由は、彼女の友達の数にあった。フォロー数もフォロワー数もともに「1」。つまりそれは、私とまったく同じだったのだ。  相互フォローだけで閉じた小さな世界。そこで生きる片割れとして、私は同い年のミナミに特別な絆を感じていた。  だがこの関係を得難いと思えば思うほど、私は自分に負い目のようなものも感じていた。  それというのも、<QuicQ>の機能のひとつにステータスの開示設定があるのだが、私はそこでフォロー数とフォロワー数の両方を非公開にしていた。その設定自体、このSNS界隈ではめずらしいことでもないのだが、同時に私は、ミナミとこんな会話もしていたのだ。 ミナミ【サキちゃんはフォロワー数を非公開にしているけど、お友達は多いの?】 サキ【フォロワー? 百人ぐらいいるかな。リアルで遊ぶ友達なんかも入れてだけど】 ミナミ【そんなにいるんだ。すごいね! どこかに出かけたりするの?】 サキ【一緒に服買いにいったり、お茶したりとかかなぁ】  そのすべてが嘘だった。にもかかわらず、嘘は指先を通して勝手に紡がれていった。それでいながら、ミナミを遊びに誘うこともできなかった。  あとから思えば、私はきっとミナミに対して友情だけでは片付けられない、複雑な感情を抱いていたのだろう。  私は、おたがいが孤独な存在であることに共感をおぼえていた。だがそれと同時に、そこには同族嫌悪のような感情も渦巻いていた。そして、長らくたった一人だけのフォロワー数を非公開にせず、また恥ずかしいとも思っていないようなミナミの姿勢を羨むと同時に、憧れのようなものも抱いていた。  そんな気持ちがないまぜになるなか、私はミナミの質問に対して、友達の多い自分を演じることに必死になっていた。
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