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ミナミは、私の話にとても興味を持ってくれた。
その日学校で何があったか。どんなアルバイトをしているのか。好きな人はいるのか。
きっとどの質問に対しても、真実がそのまま彼女の満足するような答えにはならなかっただろう。友達のいない学校生活に張り合いを持てるはずもなく、新しい地元に馴染めずアルバイトをする気にもなれない。好きな人については言わずもがなだ。
だから私は、友達に囲まれながら学生生活を謳歌し、おしゃれなカフェのホールスタッフとして働き、一つ歳上のサッカー部の先輩に恋をしている虚構の自分を作り上げた。
ミナミはそんな作り話を、まるで自分のことのように楽しげに聞いてくれた。
それというのも、彼女はどうやら友達どころか、話し相手すらもほとんどおらず、孤独な生活を送っているようだったからだ。
〝毎日窓の外ばっかり見てるよ。話すのも先生とぐらいだし〟
だがミナミは、そんな自分の状況を困ってはいても、悲観しているようではなかった。
ミナミとの会話には時々、噛み合わないところもあった。
校則がやたらと厳しかったり、授業の内容が私の受けているものよりも数段難しかったりしたのだ。
流行についてもそうだった。同年代の利用者が多い<QuicQ>をしているのに、動画や音楽など他の話題についてはほとんど無知だったりもした。もっとも、ミナミが自分のキャラ造りのためにそんなことを言っているようには思えなかった。
もしかしたら、良いとこのお嬢様学校にでも通っているのではないか。和食が好みで、料理や手芸といった趣味を持つミナミに対して、私はそう思っていた。
いや、思いこもうとしていたと言ったほうが正確なのかもしれない。
ミナミは嘘をついていない、と。嘘をつくのは、私だけで充分だ。
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