伝えたかったこと、伝えられなかったもの

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<QuicQ>に新しいメッセージが届いたのは、ミナミとの関係が物別れに終わり、学校と家を往復するだけの日々を送っていたときだった。 カナ【ひさしぶり! 遅くなってごめんね。ちょっと色々あってさ……新しい学校はどう?】  差出人は、私に<QuicQ>を勧めた張本人の佳奈だった。 カナ【友達できた? こっちはサキがいなくなって毎日寂しいよぉ】  返信をせずにいると、佳奈から追加のメッセージが届いた。突然のことにもかかわらず驚きはなかったし、彼女の文面がひどく薄っぺらなものに思えた。こちらの近況が気になるなら、なぜすぐに連絡をよこさなかったのだろう。私がいなくなって寂しいのなら、どうして返事もしなかったのだろう。  正直気乗りしないまま、私は返信をはじめた。 サキ【全然大丈夫! もしかして忙しかった? こっちは新しい学校にも馴れたよ! でもやっぱりカナと離れるのは寂しいよぉ】 カナ【だよね。サキは私がいないとダメだからなあ(笑)】 サキ【ちょっと!】 カナ【ごめん、冗談。きっとそっちでも楽しくやれてるよね?】 サキ【うん。何人か友達もできたよ!】 カナ【すごいじゃん! 写真とかある?】 サキ【ごめん、まだないや。今度みんなで遊びに行くから、そのとき撮ってくるね!】  やりとりをしているあいだ、私は無表情のままだった。自分が機械か何かになってしまったように思えた。指先から、ただ嘘を吐き出していくだけの機械に。  いっぽうで、頭の中では色々なことが目まぐるしく動きまわっていた。  まず考えたのは、佳奈からいるはずのない友達の写真をふたたび催促されたときの方便だった。もっともこれは、楽しくて撮り忘れたなどの適当な理由をつければごまかせるだろう。  同時に私は、この期に及んでまだ嘘の生活を飾り立てようとしている自分の身の振りを恥じていた。それからメッセージの差出人が佳奈だったということに、自分が落胆しているのにも気づいた。  新しい場所で、私が友達と呼べる人は一人しかいなかった。  会ったことのない友達。もはや関係が壊れてしまった友達。  ぐるぐると回る頭を抱えながらも、私の機械的な部分は佳奈とのやりとりを続けていた。そのあいだ、笑みを浮かべることは一度もなかった。  そんな気持ちのままで会話が長続きするはずもなく、佳奈とのやりとりはすぐに先細りになっていった。
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