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「――青木さんが、貴方が片恋をしていると言ってました」
うちの倉庫バイトだ。何言ってんだあいつ。いや、突然なに言ってんだコイツは。俺が居なかったらバイトと恋話してるのかよ。
とはいえそんなそぶりなんか見せず、余裕の顔をしてみせる。
「ふふん。ボクは恋多き男だからね」
「馬鹿ですね。股間が爆ぜろ」
「すぐ爆死させようとするな!俺のJr.に恨みでもあんのか」
「世の女性の為です」
涼しい顔、いや無表情でしれっと言う。素面か。素面なのかこいつ。
あまつさえ、ナチュラルに缶へ手を伸ばし、俺のハイボールをぐいっといった。
「勝手に飲むなー!」
「……え? 寝起きの一杯を」
「モーニングコーヒーみたいに言うな。迎え酒だし俺のだし」
しかし赤羽は音をたてて缶を置き、据わった目で俺を見た。
「で? 誰なんです?」
「何が」
「あなたの片思いの相手ですよ」
「?!」
「最近ため息ばかりで迷惑だそうですよ。手っ取り早くかたをつけるには、くっついて頂くのが一番です」
「雇い主に何言ってんだよあいつー!」
「雇われ人だからです。労働環境は改善されるべきだ。で、知っている人ですか?」
「……教えるわけ無いだろ」
心当たりからして無いし。ため息とかついてた覚えも無い。
「そうですか」
赤羽は食い下がらなかったが、じっと見てくる。視線で脅しても出るもんが無いっての。
後から思えば、そのときの俺は酔ってたに違いない。赤羽にイタズラというか無理難題をふっかけたくなって、言ってしまった。
「……そんなに知りたいならさ。俺にキスでもしてみなよ」
出来るわけないだろ、と続けようとした時には、前髪を押し上げられていた。そして、ちゅっと額に触れられる。
「しましたよ?キス」
「お前……」
真顔。いや、目がおかしい。酒でとけて潤んだ目に見つめられている。
いつも通りの不機嫌そうな顔と、さっきのやわらかな感触とが全然噛み合わなくて、頭がバグりそうだ。
「で?」
「……」
やられた。
本当に、何でか全然分からないが、きゅんときてしまった。
ああもうこれはだめだ。
知ってる。何十回と繰り返したのと同じ。だけど、心臓の掴まれ方が違う。
信じたくないけど、これはもう手遅れなんだろうってくらいの。
だいたい、脚。こいつの脚を触りたくなってる俺は、もう駄目なんだろう。
心当たりは今出来たし、青木には話した中身全部吐かせることに決めた。
赤羽はまだ見ている。
苛々して、顔をそむけて頬杖の手の中に呟く。
「――だよ」
「はい?」
「お前だよ」
「……?」
俺の苦渋の、いや渾身の告白が聞こえなかったのか、あいつは緩慢に小首を傾げると、顔を近づけてきた。アルコールが脳にまで回ったらしく、とろんとした目で俺を見ている。
(これ、どこまで正気なんだよ!)
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