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女はなにやらわけのわからない言葉を喚きながらトートバッグを抱えて出て行ってしまった。あの様子ではもう戻ってはこないだろう。
あの男も難儀よなあ、と、頭蓋骨に同情しながら男は微動だにしなかった。動けないわけではない。ただ意味も必要も無い動きは生まれないというだけだ。
男の姿をしていたモノの名は想化怪。
それはひとの望む姿に成り望む態度を示して傍に取り入り生気を啜るもののけであった。
女は逃げてしまったが、ここ暫くで得た生気で当面は安泰だろう。せっかく人里へ降りて来たのだからこの姿のあるうちに街へでも出てみようか。そう考えた想化怪は静かに立ち上がると部屋の電気を消した。
まあ、この街では流れ者の男女が前触れも無しに消息を絶つなどそう珍しい話でもない。
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