83人が本棚に入れています
本棚に追加
第9話 組長の過去
酒が進み、俺もほろ酔い状態になってきた。
隣に座っていた純矢さんも、良い感じに酔ってきたようだ。
俺の肩に手を回し、タバコを咥えていた。
純矢さんの顔を見ると、目がトロンとしていて、ちょっと可愛かった。
すると組の仲間が、
「あれっ、組長と湊さん、良い感じやないですか!(笑)組長がチューしてるとこ見てみたいっす(笑)」
酒の勢いなのか、他の仲間も『ヒューヒュー!』と言ったように、中学生みたいなノリをし始めた。
俺が困惑しながら純矢さんを見ると、ニヤッと笑いながらこちらを見ていた。
めっちゃノリ気だった。
純矢さんが良いなら良っかと思い、純矢さんとキスをする。
するとみんなは、『おめでとうございます!』と言ったように、拍手をしていた。
まるで、誓いのキスみたいな感じだった。
キスをすると、純矢さんは、
「ワシ、ちょっとトイレ行ってくるで(笑)」
そう言って、席を外した。
すると、1人の仲間が近づいて来て、俺の横に座った。
「湊さん、俺、林田と言います。よろしくお願いします!」
そう言って、持っていたグラスを近づけてきた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
俺も持っていたグラスを軽くぶつけた。
林田さんは、30代前半くらいだろうか?
筋肉質でザ・強面のような感じだった。
「組長、大事にしてやって下さいね…」
そう静かに言った。
「えっ?」
俺が聞き返すと、
「俺はノンケなんで、組長の全てを理解出来るわけではないですが、若い頃から組長を見て来ました。組長がゲイであることは最初から知っていました。みんな組に入る段階で知らされるからです。実は2年前、組長には相方さんがいらっしゃいました。でも…」
そう言って、一旦黙ってしまった。
だが林田さんは俺の顔を見ると、再び話し始めた。
「2年前に交通事故で亡くされました。その時は組長も憔悴し切ってしまっていて…。本当に何とお声掛けして良いか分かりませんでした。1年くらい元気がなかったですかね。組の事務所にもあまり顔を出さなくなり、みんなもかなり心配していました。1人にしてたら、相方さんの後を追うんじゃないかってくらい落ち込んでいました。そして何とか今から1年前くらいにある程度元気を取り戻した時に、飲み屋街で湊さんを見つけたんです。」
林田さんの話を聞いて、驚いた。
「という事は…、1年前から純矢さんは俺の事知ってたんですか?」
そう聞くと、林田さんは小さく頷いた。
「ええ。その辺りの話は組長から簡単に聞いてると思いますが、最初は俺らがシマを見回っている時に湊さんを見つけて、その事を組長に報告しました。その後に組長が湊さんを見ると、組長の目の色が変わりました。元相方さんと湊さんの雰囲気が似ていたからだと思います。その後、組長からの指示で、湊さんが危ない目に遭わないか定期的に見張るように言われました。そしてあの日4人組に湊さんが襲われて、我々が飛び出して行ったっていう感じです。」
「そしてその時に、俺を抱き抱えてくれたのが純矢さん?」
俺が聞くと、また頷いた。
「そうです。あの日の組長は目の色が違いました。即座に湊さんを抱き抱えて、車を回させた。全ての判断力が鬼のように早かったんです。その後、湊さんに告白しOKを貰うと、すぐに俺らにも報告して下さいました。ものすごく嬉しそうで、あんな笑顔をした組長を見たのは久しぶりでした。久しぶりに組長の笑顔が見られて、俺も嬉しかったっす。元相方さんの事もあって、湊さんに対して過保護な部分があるかもしれませんが、大目に見てやって下さい(笑)」
そう言って、林田さんは俺に手を差し出して、握手を求めてきた。
俺も笑顔で手を差し出し、硬い握手を交わした。
するとちょうどその時に、純矢さんがトイレから戻ってきた。
俺と林田さんが話しているのを見て、
「なんや林田(笑)仲良さげやんか(笑)お前、湊にいらん事言うてへんやろうな?(笑)」
そう笑いながら俺の横に座り直し、また肩に手を回した。
「俺は何も言ってないですよ!(笑)これからよろしくお願いしますね!って言う話をしていただけっす(笑)」
そう言って林田さんはみんなの輪の中に戻って行った。
俺は再び純矢さん見て、
「純矢さん、ずっとそばにいてね。」
そう言った。
純矢さんはニコッと笑い、
「当たり前やんけ(笑)ワシは離さへんで(笑)」
そう言って、またキスをした。
最初のコメントを投稿しよう!