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第2話 大柄な男の正体
結局目が覚めた日から車椅子に座れるようになるまで、3日どころか1週間弱かかった。
部屋には車椅子に乗った俺と、大柄な男の2人きり。
男はキョトンと座っている俺に、丁寧に名刺を差し出してくれた。
【東郷会直系長谷川組 組長 長谷川#純矢__じゅんや__#】
俺が名刺から目を離し男を見ると、男はいつものニコッとした笑顔を見せ、俺に今までの経緯を話し始めた。
「お前さんが倒れてから、ワシらは車を回してここに連れて来た。そして緊急でオペしてから今に至る。幸いにも弾は骨の近くで止まっておったから簡単に取り除けたらしい。#生憎__あいにく__#この病院は民間ではなく長谷川組が世話になっとる闇医者的な場所でな。民間ほど設備は整っとらんが、ここまで回復すりゃ、大丈夫だろ。」
それを聞いて、安心して良いのかどうなのか疑問が残ったが、とにかくお礼が言いたかった。
「長谷川さん、俺を助けて頂いてありがとうございました。社会の底辺にいるような俺を…」
そこまで言うと、長谷川さんは俺を制止して言った。
「良いってことよ(笑)人間に、社会の底辺もクソもあらへん。それに、"純矢さん"でええで(笑)」
とりあえず純矢さんは良い人そうだが、一つ俺の中に疑問点があった。
「純矢さん、一つ聞いて良いですか?純矢さんはあの日、何であんなところにいたんですか?」
そう聞くと、純矢さんの顔が少し赤くなったように見えた。
その赤くなった顔を隠すように、タバコに火を点け、話し始めた。
「湊、お前、毎晩のように道端で飲んでは喧嘩しとったやろ?見とったで?(笑)湊がうろついとった場所は、ワシら長谷川組のシマでな。組の連中が見回っとった。んでワシの舎弟が『シマでフラフラしとる奴がいるから見に来て欲しい』ってワシに連絡よこしてな。定期的に見回っとった。そこで、お前さんを初めて見たんや。正直に言うで?一目惚れや(笑)」
「えっ…?」
純矢さんは恥ずかしそうに続けた。
「お前さんは一見ガラが悪そうに見えるが、一緒にいた仲間と楽しそうにしとったし、何より笑顔がキラキラしとる。中身は絶対ええ子やと思うとった。お前さんの顔も、ワシのタイプでな(笑)こんな可愛い子がワシのシマで危ない目に合わへんか、あの日もお前さんの友達と別れた後、後ろから付けとった。思い返せば、軽いストーカーやな(笑)」
そう言うと、純矢さんは笑い始めた。
話を聞いていると、俺の中で何となく辻褄が合ってきたような感じがした。
「んで後を付けた湊が、4人組の悪い子らに襲われたと。正直助けるか迷った。湊がこっちの人間か分からへんかったからや。せやけど、助けずに後悔するより、助けて後悔した方がええと思って助けた。助けた結果、こっちの人間やったってワケや(笑)」
そう話す純矢さんの顔は、本当にカッコ良かった。
少し贅肉が付いたガタイに、目鼻立ちがしっかりした顔。
正直、ドストライクな男性だった。
「湊、お前相方いるんか?」
純矢さんが唐突に聞いてきた。
「えっと…」
俺は素直に答えられずにいた。
すると悟ったように純矢さんは続ける。
「やっぱり、おらへんな(笑)もしおったら連絡取らんといかんけん、スマホ探すもんな(笑)」
純矢さんは笑いながら言った。
『そういえばスマホが無い…』
俺が焦ったのが分かったのか、純矢さんは、
「大丈夫や(笑)今日はこれを返そうと思って来たんや。」
そう言って純矢さんは、着ていたジャケットのポケットから俺のスマホを取り出し、俺に渡した。
「あの日、湊が倒れた衝撃でか分からへんが、画面が割れとってな。組の詳しい者に頼んで修理してもらっとった。」
言われてみれば、画面が綺麗になってる気がする。
「純矢さん…本当にありがとうございました。」
俺は純矢さんに頭を下げた。
すると純矢さんは、
「悪く思わんといてな。ちっとばかり、中身見ちまった(笑)湊、お前、ワシみたいな男が好きなんか?(笑)写真が何枚か出てきたぞ(笑)」
頭から湯気が出そうなくらい恥ずかしくなり、耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かった。
その様子を見て、
「ホンマに可愛い子やな、湊は…」
そう言って、俺の顔をじっと見つめる。
少しの沈黙があり、純矢さんはそっと口を開いた。
「湊…、ワシと付き合うてみんか?」
純矢さんの言葉に、頭がボーッとしてしまった。
俺が純矢さんと付き合う?
頭が追いつかなかった。
俺が困惑してるのが分かったのか、純矢さんは続ける。
「湊、帰る場所ないんやろ?ならワシが面倒見たる。ワシが湊を幸せにしたる。ワシは極道の人間やが、湊を危ない目には絶対に合わせん。約束する。せやから、なぁ?こう見えてワシ、今めっちゃ恥ずかしいねんで?(笑)」
純矢さんの目がキラキラしていた。
正直、最初はヤクザと付き合うなんてと思ったが、純矢さんの目があまりにも真っ直ぐなのを見て、心に決めた。
「はい…、俺で良ければ…よろしくお願いします。」
俺はそう言って頭を下げた。
すると純矢さんは、
「ホンマか?ホンマか?!よっしゃ♪告白成功や(笑)」
子供のようにはしゃいでいた。
その様子を見て、俺は少し笑ってしまった。
すると、
「そう!その笑顔が好きやで♪」
一気に恥ずかしくなった。
すると純矢さんは、
「せや!湊、LINE交換してや♪最近頑張って覚えてんねん(笑)」
『ヤクザもLINE使うんだな…』
そう思いながらも、俺は純矢さんとLINEを交換した。
アイコンは自撮り写真だった。
渋い雰囲気で、とてもカッコ良かった。
「そういえば…」
俺はもう一つ気になっていた事を聞いてみた。
「純矢さん、おいくつなんですか?」
すると純矢さんは、そんな事かと言った表情をして答えた。
「ワシか?今年で40や。せやから、湊とは22歳差になるな(笑)歳の差カップルや(笑)」
正直驚いた。
30代前半に見えたからだ。
「俺、30代前半かと思ってました。渋い中にも若々しさがあって…、何よりタイプなんで…」
正直に言ってしまった。
すると純矢さんは嬉しそうに、
「ホンマか?(笑)立派なアラフォーやで?(笑)湊は、歳の差気にするんか?」
そう聞かれ、首を横に振って言った。
「いえ、特に気にしません。俺は幼い頃に親父を事故で亡くして、そこからずっと大人の男に憧れてました。そんな中、純矢さんに助けて頂いて…。この人と付き合ってみたいと、少しばかり思ってました。」
思っている事を正直に話した。
すると、
「ホンマに…嬉しい事言ってくれるやないか…。湊、ワシ我慢出来へん…。」
そう言って純矢さんは立ち上がり、車椅子の前にしゃがんだ。
「湊、目…#瞑__つむ__#ってくれるか?」
俺は何をされるかを察し、そっと目を瞑った。
すると、そっと優しく、純矢さんが口付けをしてきた。
純矢さんは優しく俺にキスをしてくる。
香水とタバコが混ざったような、あの日と同じ匂いがして、とても幸せな気分だった。
純矢さんが、ゆっくりと顔を離す。
目がトロンとしていて、少し可愛かった。
「ワシらの関係、他の連中には、絶対内緒な♪」
そう言って、ニコッと笑った。
「あと少しで退院出来るそうやが、退院してからは、しばらくワシの家にいるといい。その方がお互い安心できるやろ。ワシも湊と一緒におれるし(笑)」
「本当にありがとうございます。」
再びお礼を言うと、
「あと…2人きりの時は敬語禁止な♪」
純矢さんが#悪戯__いたずら__#っぽく笑って言った。
「…うん。分かった。」
ぎこちなくそう言うと、
「それで良え♪湊、これからよろしくな♪」
そう言って、再びチュッとキスされた。
キスされた瞬間、あの日見た流れ星が、また見えた気がした。
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