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第3話 退院、そして…
純矢さんと初めてキスをした日から1週間、ようやく松葉杖をついて歩けるようになり、俺は無事に退院した。
13時に部屋に迎えに来るから、荷物をまとめて待っておくように、純矢さんに言われていた。
退院するからと言っても、帰る先は自分の家ではく、純矢さんの家だ。
と言うか、俺には家がない。
一応実家はあるが、母親が育児放棄をし、何とか18歳になったところで実家を飛び出した。
その後は友達の家を転々としていて、帰る場所が無かった。
そのため、母親とも疎遠になっていて、実家を出てから一度も連絡を取っていない。
母親も、俺のことは特に気に留めていないんだろう。
とりあえず、親友である圭介だけには簡単にあの日あったことを連絡しておいた。
そして純矢さんと付き合うことになったことも告白した。
俺の彼氏がヤクザの組長であることに、圭介も初めはかなり困惑していたが、電話の声を聞いて安心したらしく、お前が良いなら良いんじゃないか?といった感じで受け入れてくれた。
そんな感じで荷物をまとめていると、1通のLINEが入る。
純矢さんだ。
「湊、今から迎えに行くが、準備は大丈夫か?」
「うん、大丈夫。よろしくね。」
そう返事した。
数分後、部屋のドアが開き、純矢さんが入ってきた。
「何とかここまで回復したな(笑)松葉杖は勝手悪いやろうが、抜糸するまでの辛抱やな(笑)ほな…、帰ろうか?」
「うん、分かった。これから色々とお世話になります。」
俺は杖をつきながら、純矢さんに頭を下げた。
すると純矢さんは、
「お前が無事で本当に良かった。これから仲良くしてな…」
そう言って、優しく俺を抱き締めた。
純矢さんからは、いつもの匂いがした。
この匂いが何とも心地が良い。
ゆっくりと俺から身体を離すと、俺の荷物を持ってくれた。
「下に車回してるから、それでワシの家まで行くで♪もう他の連中には、しばらくワシの家で預かることは言ってあるから、変な心配せんで大丈夫やで(笑)」
さすが組長、抜かりがない。
俺らはゆっくりと、車へ向かって歩き始めた。
車には、舎弟と思われる男性が立っていた。
その男性は俺と目が合うと、
「湊さん!退院おめでとうございます!ここまで回復されて良かったです!何より…、組長が嬉しそうなのを見ると、俺も嬉しくなります!」
無駄に元気な声で俺にそう言った。
「こちらこそ、色々とありがとうございました。」
その男性に深々と頭を下げると、
「湊さん、忘れ物はないですか?」
そう気遣ってくれた。
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします。」
俺がそう返事すると、男性は車のドアを開けて俺らを中に入れてくれた。
反対側のドアからは、純矢さんが乗り込んできた。
そして、運転席から見えない位置で、純矢さんがそっと手を繋いできた。
その瞬間、ドクッと心臓が高鳴るのを感じた。
車を走らせること、30分くらい経っただろうか。
高層マンションの前で、車が停まった。
車が停まるなり純矢さんが、
「さて、着いたで♪」
そう言って、先に車から降りる。
俺は杖をつきながら、純矢さんの後を追うように下車した。
「もうここからは大丈夫や。井上、ありがとな。」
純矢さんは運転してくれた男性にそう言った。
「分かりました!お二人ともお気をつけて!」
そう言って頭を下げた。
俺も井上さんに会釈をして、純矢さんとマンションに入っていった。
純矢さんが住んでいるマンションは、まるでホテルのようだった。
エントランスには大きなシャンデリアがあり、高級そうなソファがいくつか並んでいる。
エレベーターが4基もあり、俺らはその内の1基に乗り込んだ。
「さて…、湊に話したいことがたくさんあるで♪まぁ、コーヒーでも飲みながら話そうや(笑)もうタバコ吸いたくてしゃあないやないんか?(笑)」
そういえば、病院に連れて行かれてから、1本も吸っていない。
純矢さんに言われて、急に口が寂しくなった。
「タバコは吸いたいけど…、俺一応未成年だけど…。」
そう言うと純矢さんは笑いながら、
「今更何言うてんねん(笑)別に未成年やからって、ワシは止めたりせぇへん(笑)ワシも湊の年齢の時には、既に吸っ取ったからな(笑)」
特に咎める気もないようだ。
エレベータは31階で止まり、俺らはエレベーターを出た。
手を繋ぎながら歩き、純矢さんは3104と書かれたプレートの前で止まった。
「ここや♪」
そう言って、持っていたカードキーをリーダーに翳し、ドアを開ける。
純矢さんの部屋は、まるでモデルルームのような部屋だった。
モノトーンで統一されたインテリアは、大人の男性を演出するような物だった。
「まぁ、適当に座り♪」
そう言われ、俺はダイニングテーブルの1脚に腰を下ろした。
しばらくすると、純矢さんは淹れてくれたコーヒーを俺に差し出し、俺の正面に座る。
そして、持っていたタバコを自分で咥え火を点け、俺に差し出した。
俺は純矢さんが咥えたタバコを咥え、一吸い。
約2週間ぶりに吸ったため、少しヤニくらが起きた。
「さて…、ワシが話したいことなんやが…」
純矢さんはそう言って、自分の分のタバコに火を点け、話し始めた。
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