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第8話 始まる歓迎会
純矢さんの家に来てから1週間。
ようやく抜糸し、松葉杖も取れた。
抜糸されている間、純矢さんはずっと隣で目を覆っていた。
「純矢さん、終わるまで廊下出てても良いよ?」
そう言うと、
「あかん!もし湊に何かあったら、ワシ耐えられん…」
まるで過保護な親のようだった。
その様子を抜糸していた医者はずっと見ながら笑っていた。
抜糸が終わり病院を後にすると、先程とは打って変わって、すこぶる笑顔になった。
まるで大きな嵐が去った後の快晴のようだった。
「もう13時やな…。湊、なんか軽く食うか?今夜は歓迎会やけん、あんまりガッツリは食えへんが…」
「とりあえず…タバコ吸いたいから、喫茶店入らない?」
「あぁ、ええで♪」
さっきの純矢さんの様子を医者と2人で笑いを堪えるのが辛過ぎて、喉がカラカラだった。
「純矢さん、ああいうのは苦手なの?」
すると純矢さんは、
「そうやな…。この業界に長くいればいるほど苦手になっとる…。若い頃は血も平気やったのにな…。」
歳をとって、感受性が豊かになったのだろうか。
そんな話をしながら歩いていると喫茶店を見つけ、中に入る。
時間が半端だったからか、客はまばらだった。
適当に席に着き、タバコに火を点けた。
「湊、コーヒーで良えか?」
「うん、大丈夫。」
すると純矢さんは店員を呼び、コーヒーを2つ注文してくれた。
「今夜は豪華やでぇ(笑)」
そう笑いながら純矢さんはコーヒーを啜った。
夜になり、純矢さんと一緒にマンションを出る。
その時、純矢さんからカードを手渡された。
「これ、渡すの忘れとった(笑)うちのカードキーや。これでエントランスとワシの家、両方開くで♪」
そう言われ、ありがたく受け取り、財布にしまった。
純矢さんはマンションを出るなりタクシーを停め、俺と一緒に乗り込む。
「ご乗車ありがとうございます。どちらまで?」
「新宿のキャビン分かります?」
「はい、かしこまりました。」
そう言って、タクシーは純矢さんが言ったキャビンへ走り始めた。
約20分後、タクシーは新宿の飲み屋街のど真ん中で停まった。
タクシーを降りると、1人の男性がこちらに歩いてくる。
この間送ってくれた井上さんだった。
「組長、お疲れ様です!湊さんも、お元気そうで何よりです!」
そう挨拶をしてくれた。
「さぁ!みんな中で待ってます!」
そう言って、俺らをみんなの元へ案内してくれた。
店内はもの凄く煌びやかな空間だった。
シャンデリアが吊り下がり、おしゃれなBGMが流れる。
床は絨毯が敷かれていて、高級感が凄かった。
先頭を歩いていた井上さんがVIPと書かれたプレートが付いたドアの前で止まり、静かにドアを開ける。
中には、20人はいるだろうか、長谷川組の仲間が揃っていた。
純矢さんが入るなり、みんな立ち上がり、
「組長!お疲れ様です!」
一斉に礼をしてきた。
すると純矢さんは、
「みんな、お疲れさん。今日は集まってくれてありがとな!こちらがワシの相方の湊。組の仕事も手伝ってくれることになった。みんな、仲良くしてやってくれ。」
そう仲間に紹介してくれた。
「皆さん、初めまして。湊です。よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げた。
するとみんなは、
「押忍!!」
鼓膜が破れるかと思うくらい、元気に返事をしてくれた。
俺らは一番奥の席に通され、純矢さんと並んで座った。
すると人数分のビールが運ばれ、純矢さんが改めて挨拶をする。
「みんなも知っている通り、ワシと湊は付き合うことになった。ワシは、この子の事をホンマに愛しとる。みんなもワシのことを理解してくれて、ホンマにありがとう。今夜はたらふく呑んでくれ♪ほな…乾杯!」
「「乾杯!!」」
みんながグラスをぶつけ合い、歓迎会が始まった。
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