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僕の名前は、風岡翔太(かぜおかしょうた)。どこにでもいる普通の中学生だ。 しかし、父は違う。父・風岡快人(かぜおかかいと)は、我が国でも有名な科学者なのだ。 父は転勤が多い。一つの実験ごとに、場所を変えなければならないからだ。 そのため、僕も毎度父についていき、同じ学校には、一か月もいられないことが多い。 母はいない。気づいたら、いなくなっていた。毎月のように引っ越すから、どこかに置いてきたのかもしれない。 僕は、学校で友達ができたことがない。そう、一人も・・・・・・ 転校生は嫌われるという、暗黙の風潮があるのだろうか? 僕は転校することが、大嫌いだ。 だが、残念ながら今月の転校 の日がやってきた。 ああ、もう憂鬱だ。 僕にとって幸せとは、何か。それは、一つの学校に、一年以上通えること。 そのための条件とは、父が一年間、実験を失敗し続けること。 9月。夏が終わり、僕はまた転校することとなった。 今回は、人口が少ない、田舎の村であった。 引っ越しが終わった次の日から、さっそく学校があり、混沌とした気持ちを味わっている。 学校の正門をくぐる。 あれ、いつもなら、奇怪な視線をあびるのだが・・・・・・ まあ、とりあえず、いつも通り職員室に行こう。そこで、いつも、冷徹な視線をあびることになる。 ・・・と、その時。 「よう、翔太。新発売の「STARSSTARS」、もう買ったか?」 「は?」 誰だこいつ。突然話しかけてきた。 「いやいや、こないだ言ってたゲームだよ。忘れたのか?」 そっちの話ではない。僕が聞きたいのは、お前が誰かということだ。 それに、僕は昨日引っ越してきたばかりだから、まだ誰とも話したことはないし、友達もできていない。 「おいおい。何寝ぼけてるんだよ。俺だよ、俺。お前の親友、後藤ごとう神かみだよ。」 後藤・・・・・・神? 何とも変わった名前であるが、もちろんそのような知り合い、僕にはいない。 「いやまさか、記憶喪失になったのではあるまいな。放課後、カタヤマのにいちゃんに診てもらうか?」 だから、昨日引っ越してきたんだよ。 「いや、お前と俺は幼稚園のころからずっといっしょにいた。生まれもここであったはずだぞ。」 ・・・・・・お前の頭どうかしているんじゃないか? 「まあまあ、とりあいず教室行こうぜ?な?」 後藤は、こう言って、俺の腕を引っ張っていく。 「やあ、翔太、元気かい?」 「おはよう、翔太君。」 「翔太君、今度いっしょに遊ぼう!!」 は?なんで、クラスの全員が僕のことを知っているんだ? 「えっとぉ・・・・」 どうしたものか、これは。どうやらみんなは、転校のサプライズなどではなく、本当に、昔から僕のことを知っているような様子であった。僕の趣味、血液型、誕生日、癖など。 まるで、本当に僕の記憶が抜けているようであった。 しかし、そんなはずはない。僕は確かに、昨日引っ越してきたばかりのはずなのだ。 なにか、何かあるはずだ・・・・・・ 結局、担任も、僕を紹介することはなかった。やはりどうやら、すでに前からいた生徒として認識されているようだ。 また、後藤神以外に、もう一人、かなり親しい友達がいた。 その生徒の名前は東匠師郎(とうじょうしろう)。僕と同じ部活のようだ。(いや、そもそも僕は何部だ。) とまあ、こんな感じで、転校したら、すでに知られていた! こんなことは、人生初めてだ。 まあ、いつものような異星人を見られるような視線よりは、いささかいいか。 こうして、授業も何か出来事があることもなく、終わった。 そして、放課後は、いつも部活だそうだが、さすがに今日は断った。ただでさえ、今日転校してきたばかりなのに、いつもいたように扱われるということがあったのだ。とりあいずここは、すぐに帰って、父に報告しようか。 だが、現実はそう甘くなかった。 東匠には、適当に理由をつくって振り切ったが、帰ろうとした僕の前に、後藤が立ちふさがった。 「翔太、今日なんか変だったよな。やっぱり、帰りにカタヤマのにいちゃんに診てもらおうぜ。」 カタヤマのにいちゃん?そういえば、さっきも言ってたな。 誰か知らないが、僕はまだ振り回されるようだ。
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