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二
カタヤマのにいちゃんという名の者のところまで行く間、僕は後藤から、その者についての情報を聞いた。
本名、片山百吉。村のみんなから、「カタヤマのにいちゃん」と呼ばれる、96歳の医者だ。
ちなみに、この村には、医者が彼一人しかいない。だから、いつでも外で行列を作っており、診てもらうのに、数日並び続けなければならない。
それでも彼は24時間、365日、働き続けている。
そうこうしているうちに、その医者のところについた。
正確には、その病院の外の患者さんで大量行列の最後尾に。
この列では、診察してもらうのに、少し時間がかかりそうだな。
三日後。ようやく僕達の番がやってきた。
ああ、三日も徹夜する価値などあったのだろうか・・・
診察してくれたのは、本当に今にも死にそうな爺さんだった。
それなのに、みんな「にいちゃん」と呼ぶから、不思議な話であった。
「おお、風岡君、目に隈ができておるぞ。今日うちにきた理由は不眠症かね・・・・・・それにしても、うちにくる患者さんは皆いつも目に隈ができておる。なぜかのう?」
僕は、「それは徹夜で三日間も並んで待っていたからだよッ!!!」って叫びたいのを何とか我慢する。
すると後藤は平然として、片山のにいちゃんに事情を説明する。そういえばこいつ、僕といっしょに徹夜だったのに、疲れた様子はないな。名の通り、本当に神なのか?
「――――そのようなことがあって、翔太が記憶喪失を起こしているのか、調べてほしいんだ。」
すると、カタヤマのにいちゃんは、なぜか気まずそうに答えた。
「おお、そうか。じゃが、わしは、彼から記憶喪失素は感じんぞ。」
そりゃ、そうだ。僕は、記憶喪失ではないのだから。
ていうか、記憶喪失素って何?それを感じないって・・・・・あれあなたって、呪術師だっけ。医者じゃなかったっけ。
とにかく、収穫は何もなく、3日間待った価値もまったくなかった。
それから、一時間ほど、後藤と片山のにい
ちゃんは言い争いしていたが、僕はとにかく早く帰りたかった。
なんとか解放された時にはもう夕方であった。土日を無駄遣いし、学校を1日休み、負担はかなり大きい。
まあ土日家にいても、父に実験体にされるだけだから、それよりはましか。
家に帰ったら、父も仕事が終わったのか、ご飯を作ってくれていた。
母がいなくなってからは、父が全ての家事をやってくれている。たまに、料理に洗剤を入れたり、洗濯の時に醤油を使って洗ったりするが、それはご愛嬌だ。家事を全て行ってくれることに僕は感謝している。
「ただいま。」
「あ、おかえり。そういえば三日間家に帰って来なかったが、どうかしたのかい。」
「この村では、医者にかかるには、三日間待たなければならないんだ。」
「へえ、そうなんだ。」
そんな父に僕はこれまでのことを報告した。
・・・・・
・・・
・
「ふうん、それは奇妙なことがおこったねえ。でも翔太にとってはそれは好都合なんじゃないか?だって、翔太、いつも俺の転勤に合わせて転校してたから、友達ができなかったんだろ。それが今回、クラスのみんなが友達、そして親友が二人もできたんだったら、いいことだらけじゃないか。」
「うん、まあそうなんだけど・・・・・でもなんか、気になるんだよね。だって、僕が転校生として歓迎されているんじゃなくて、前からいた生徒として扱われているのだから、もしかしたら、僕によく似た人がいて、その人がたまたま今病気で休んでいるだけのかもしれないし、それだと気の毒だよ。何にせよ、一度調べてみる必要があると思う。」
「それじゃあ、まあやってみよ。何か分かるといいな。」
「あと、仲良くなったら仲良くなったで、それは大変じゃない?だって、僕はまた一ヶ月以内に転校するんでしょ。だとしたら、別れのとき、悲しまれると思うよ。」
僕は父にそういうと、父から驚きの返答が帰ってきた。
「いや、それを心配する必要はない。実は今回の研究は、俺が今までやってきたどの研究よりも壮大で、時間がかかる。今までの
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科学を大きく変える、研究だからな。だから、少なくとも一年は、この地にいることとなるぞ。
しかも実は、今日、俺が実験の失敗によって爆破事故を起こし、研究所の9割を壊滅的な被害に追いやった。その復旧にも時間がかかる。」
えッ・・・
うそ、そんな・・・
「よっしゃーーー!!!」
「?」
ついに念願の、一つの学校に一年以上いられる!!
この時をどれほど待ち望んでいたか。
嬉しさで涙が出る。
「ありがとう!お父さん。」
「は!?」
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