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【 プロローグ 】
夏の空は残酷だ。
なぜなら、今の僕にはとても眩し過ぎるから。
色は蒼く深く奇麗なグラデーション。雲はまるでスプーンですくった丸いアイスクリームを重ねたようだ。
この建物の屋上に吹く風も、暑さを忘れさせてくれるような清々しささえ感じる。
いつだったか、小さい頃に何度か味わったことのある、あの懐かしい夏の匂いがする。
1年前の自分だったら、こんな気持ちでこの空を眺めてはいなかっただろう。
どこからか、白い鳩が五・六羽飛んできた。近くの結婚式場から放たれた鳩だろうか。
あの白い鳩も、ふたりの幸せを願って飛んで行った訳ではないだろう。
結婚式の一つの演出でしかない。また、戻ってくるようにどうせ躾られているのだろう。
夜勤のコンビニのバイト帰り。嫌なことばかりで、このビルの屋上から飛び降りて死のうと決めてきた。
鉄製の柵に手をかけると、夏の日差しに温められ少し熱く感じる。
足をかけて反対側へと越える。
その先には何もない。
急にこの屋上での風の強さを肌に感じ、鉄製の柵をぎゅっと左手で握った。
眼下には、忙しそうな人々が蟻のように動き回っているのが見える。
あと一歩踏み出せば楽になれる。
全てから解放される。
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