20人が本棚に入れています
本棚に追加
「さぁて……少しは、気が晴れた?」
趣味の画像投稿アプリにパフェの画像を上げながら、マーヤはあたしの機嫌を窺う。
「無理。根本的には解決してないじゃん」
「それこそ無理言うなよ」
「あー、この季節、憂鬱だぁ」
分かってる。2ヶ月後、11月の頭には、あたし達が通う中学校で文化祭があり、あたし達のクラスの2Bは演劇を出し物に選んだってこと――それは3時間前の決定事項で、今更あたし1人の反対意見なんか通らないってことも、さ。
「観念しな。小道具係になれたのは、僥倖じゃん」
「相手がジャンケン弱い結城さんで助かったよ」
ホント、危なかった。あの時、チョキを出さなけりゃ、「赤の兵隊・その3」を演じなきゃならないところだった。
「あはは。しばらくハサミを丁寧に扱わなきゃね」
「訳分からん」
スマホのバイブに気づいて画面を見ると、友子さんからのLINEが届いている。
『美姫さん、夕食はいかがなさいますか? バニーズで召し上がって来られますか?』
あ、忘れてた。今朝、「バニーズでパフェを食べてくるから、夕食は分からない」って言ったんだっけ。
「マーヤ、ご飯食べてく?」
「いや、帰る。今日、うちのママのハンバーグだもん」
「あっそ」
母親の手作り料理が迎えてくれる。そんな経験、1度だってあたしにはない。ま、天下の大女優姫川星華がキッチンに立つ姿なんて、ドラマの撮影現場でもなけりゃ見られるもんじゃないけど。
「ハンバーグか。あたしも、友子さんに頼もうかな」
「え、今から?」
「作り置きを冷凍したヤツがあるでしょ」
「そっか。“スーパーメイド友子さん”に不可能はないか」
「なに、そのダッサいネーミング」
「うっさいわ。じゃ、出るかぁ」
『家で食べます。出来れば、ハンバーグ希望』
素早くLINEに返事して、スマホを鞄に放り込むと、あたし達は席を立った。
期待通り、マンションに帰ると友子さんは、熱々の鉄板プレートに乗った“お手製デミグラスソースのハンバーグ”を食卓に出してくれた。あたしの好きなコーンポタージュスープも忘れない。ホント、完璧。実は、彼女の中身はAIロボットなんじゃないかしら。
最初のコメントを投稿しよう!