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「さて、どこ行こうか?」
「どうしましょうかねぇ……」
妹尾先輩の息が整ってから教室を出たのはいいものの、行き先は決めていないし、確実に行きたい場所もアイス以外決めていない。本当にノープランで、いきなり空き教室の前で足が止まってしまったのだ。
「先輩、パンフレット持ってます?」
「ロッカーに置いてきちゃったんだよね。姉ヶ崎くんは?」
「オレもリュックの中です」
文化祭のパンフレットは一度も見ないままファイルの肥やしになっていて、どこのクラスが何をどこでやっているのかさっぱりわからない。
『ぐぅ』
腹が鳴った。オレの。え、全然鳴る気配なかったじゃん。
……妹尾先輩に聞こえたか?
顔ちゃんと見ても、妹尾先輩が気づいた様子はないから、多分聞こえてないはず。
「とりあえず腹減りました」
「じゃあお昼にしようか」
今回は聞こえなかったけど、いつ聞こえてもおかしくないくらいの音量で腹が鳴りそうなほど、腹が減った。
いつもなら弁当を食い終わってる時間だし、2時間目の授業が終わったタイミングで食べてる間食も今日はない。
朝練がなかったとはいえ、13時も過ぎれば腹は減る。
「あ、チヂミあるよ」
歩いてすぐそこ。ちょうど隣の教室が飲食クラスだった。しかも客はそんなにいなくて空いてそうだ。ラッキー!!
「あっ、"弟ヶ崎"じゃん!!」
「こんにちはー」
店の受付をしているであろう、誰だか知らない先輩に声をかけられた。
まぁこの学校に来てからそんな事は日常茶飯事だからな。気にしたって仕方ない。
「弟ヶ崎……?」
「オレ、姉貴がいるんですけど」
「そういえば宇部先輩がそんな事言ってたね」
「姉貴が、そのまんま姉ヶ崎。で、弟のオレが、苗字を1文字変えて、弟ヶ崎。って呼ばれてるんですよ」
「へぇ〜、面白いね」
面白いなんて初めて言われたような……。
多分、姉弟で同じ学校通ってるからですけどね。これがどっちかが他校だったら、区別して呼ぶ必要ないから普通に姉ヶ崎、とか、伊南沙呼びなんでしょうけど。
「チヂミ、食べてくか? もうすぐ焼きたてが食えるぞ?」
「マジっすか!?」
夏に熱いものはあんまり食いたくないけど、でもこういうのは出来たての方が美味いに決まってる!!
「妹尾先輩、いいですか?」
「うん。いいよ」
「毎度ありーっ!! 一皿300円な」
見知らぬ先輩にオレと妹尾先輩の分を合わせた600円を渡す。
同じタイミングで廊下から三角巾とエプロンを着た先輩がやってきて、もう1人の受付をしている先輩に銀のバットを手渡した。
受け取った先輩が紙皿にチヂミを移して、オレと妹尾先輩にチヂミを渡してくれた。
300円で4切れか……。思ってたより少ないな。
「出来たてであったかいね」
「確かに」
なんか妹尾先輩は嬉しそうにしてるし、マイナスな発言はしまっておこう。
確かに、紙皿からほんのり熱が伝わってくる。湯気も見えるし、本当に出来たてだ。
たまたま窓際の2人席が空いていたから、そこに妹尾先輩と座る。席に置いてあるタレをかけて、一口でチヂミを一切れいただく。うん、まあまあ美味い。
もう一切れ口に入れていると、教室の入口近くにいたカメラを持った女子生徒……。姉貴と目が合った。あ、なんか絡まれる予感。
「美味しそうなの食べてるじゃん」
「やらないからな」
「えぇー、ケチ」
姉貴の持つ立派なカメラを見て、それから腕に腕章が巻いてあるのに気がついた。
「そのカメラ、仕事?」
「え? あぁ、アタシ記録係なんだよね。撮ろうか?」
「あ〜……」
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