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せっかくなら、妹尾先輩と食べてる記念に写真は欲しい。けど、先輩はどうだろう。事務所NGとかあんのかな……。
「先輩、いいですか?」
「うん。せっかくだし」
「撮って」
先輩に確認を取って、短く姉貴に伝える。
「いいよ〜。…………ん? え!? せの」
「シーーーーッ!!!!」
声に出しそうになった姉貴に向かって、威圧的に声を出す。口に人差し指を当てるジェスチャーも忘れない。
せっかく!! 騒がれずにチヂミ食えてるんだから!! 大声出すな!!
「やっと騒がれてないんだから!!」
「…………、ごめん。…………え、で、何で一緒にいるの!?」
限りなく小さい声で、姉貴が大きく驚いてみせる。器用だな。それに救われるけど。
「午前の見回り一緒で、午後はお互い空いてるから一緒にまわろうって」
「へぇ〜〜〜。凄い偶然」
「初めまして。妹尾嵐です」
「いやいや、そんな自己紹介しなくても。妹尾くんの事知らない人なんていないでしょ」
姉貴の言葉が地味に刺さる。オレは今朝、宇部先輩に言われて初めて知ったからなぁ……。
「あ、アタシは伊南沙の姉の、姉ヶ崎灯南です。今後ともよろしく」
今後はあるのか?
「はい。撮るから寄って寄って! それからカメラ見てね。撮るよ〜」
少し椅子をずらして、妹尾先輩と並ぶように体を近づける。
ハイ、チーズ。
姉貴が決まり文句を言って、シャッターを切る。
カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ……。
「……何枚撮るんだよ!!」
「アンタの笑顔が汚いからよ」
「はぁ!?」
「騒がないでくださーい。妹尾くんがファンに見つかっちゃうでしょー」
ああもうムカつく!!!!
「う〜ん、まあこんなもんじゃない? ほら」
姉貴は立派なカメラの液晶画面を見えるように持ち替えて、今撮った数枚の写真を見せてくれた。横のボタンを押すと、微妙に違う写真に切り替わっていく。
少しぎこちなく笑うオレと、自然な笑顔の妹尾先輩。しっかりカメラ目線だけど、ぎこちなくないし、わざとらしくカッコつけてもいない感じ。妹尾先輩だけなら、文化祭の写真フォルダのサムネに使えそうなくらいだ。
「伊南沙はどうでもいいんだけど」
「おい」
「妹尾くん的にはどう? これで大丈夫?」
「はい。ありがとうございます」
にこり。と、写真とはまた違った笑顔になる妹尾先輩。今度の笑顔は、相手に感謝を伝えてるような、そんな顔をしている。
「次どこ行くの?」
カメラをゆっくり下ろして、それから流れるような手つきでオレのチヂミを一切れ奪いながら姉貴が言った。この野郎。後で請求するからな!!
「……宇部先輩のクラス。アイスのトッピング無料券もらったし、先輩にも来いよ、って言われてる」
チヂミを勝手に奪ったんだから、アイス代は姉貴に出させようか……。
「え、6組ならもうすぐ売り切れそう〜。ってさっき言ってたよ?」
「は!?」
「えっ!?」
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