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「嵐くんだ!!」
「えっ、ホント!? 本物!?」
「背たっかぁい!!」
「かっこいい〜」
なるほど。オレが仕事をしないといけないっていうのはこう言う事か……。
昇降口で目的地ごとに人を流そうとしたら、ド真ん中で妹尾先輩が一般客に囲まれた。主に、女子中学生に。
黄色い声が飛び交ってるし、移動してもらおうと声かけたら睨まれるし、いい顔されないし、妹尾先輩から離れないし、人だかりは大きくなる一方だし、ダメだこりゃ。
写真撮影とか、サインをお願いしてる人もちらほらいるけど、全部断ってる先輩。そりゃこの人数全員に対応してたら、それだけで1日終わりそう。
幸いと言うか何というか、保護者と思われる人とか男子中学生とかは迷惑そうな顔をして横を通り抜けて行ってくれる。
オレが先輩に群がらない一般客を大体案内し終わった頃には、さすがに先輩も解放されていた。
これは普通に人選ミスなんじゃないか?
「ごめん、ありがとう……」
「超人気者じゃないですか」
「そんな事ないよ」
「普通の人にあんな人だかりはできませんよ」
中には先輩から離れていく時に、
『嵐くんがいるならここ受験しようかな』
なんて言ってる人もいたくらいだ。一般人は受験動機にならないだろうから、芸能人パワーに違いない。
「よし。気を取り直して見回りしよっか」
「はい」
さっきの様子を見る限り、見回り先でも同じ事が起きそうだよなぁ……。
マスクとか、変装用のメガネとか帽子とか持ってないんだろうか。
とりあえず、1階から見回りを開始する事に。
1階は普段3年生の教室。何クラスか下級生と交換してるらしく、2年生のお化け屋敷や1年のプラネタリウムなんかもやっている。
2年生のお化け屋敷からは結構ガチめの悲鳴が聞こえてくるし、泣いて出てくる生徒や一般客もちらほら。
「凄い……。本格的なんだね」
「あ、解放されました?」
「なんとか……」
実は、昇降口から少し教室側に移動した所でまた先輩は一般客に捕まっていた。
オレは少し進んでたけど、決して先輩を置いて行ったとかではないから!! オレがいたら通路の邪魔になるかと思って少しずれてただけだから!!
「おっ、順調か? 伊南沙と妹尾」
「あっ!! 宇部先輩!!」
お化け屋敷の隣の隣のクラスに、デカい手持ち看板を持って立ってる宇部先輩がいた。
「なんか妹尾はもうお疲れモードって感じだな」
「ははは……。姉ヶ崎くんに迷惑かけてばっかです」
「いいよいいよ。伊南沙なんて」
「オレが仕事しなきゃいけないって、こういう事だったんですか?」
「そういう事」
こうして先輩と話してる間にも、話しかけてこそこないけど視線はある。妹尾先輩に向けてだろうけど、流れ弾ならぬ流れ視線がオレにも直撃しててなんか嫌だ。
「そんな妹尾にはこれをやろう」
「え、いいんですか?」
「なんですか、それ?」
宇部先輩が妹尾先輩に渡したのは、緑色の小さい紙切れ。
「うちのクラスで使える、トッピング無料券。これ渡せば、ここに書いてあるトッピングどれか1コ無料でつけてやる」
宇部先輩が看板をくるっとひっくり返すと、ホイップ、チョコスプレー、クッキー、ウエハース、ハチミツ。とカラフルな文字で書いてあった。
そういえば、先輩のクラスはアイス売ってるんだっけ。
「え、いいな。オレも欲しい」
「1枚で2人まで使えるから、見回り終わったら来な」
「やったぁ」
「あと……」
耳寄り情報教えてやる。
と、宇部先輩は他の人に聞こえないように、超小声で話してくれた。
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