10人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「おおぉ!! すっげー!! テレビで見るやつ!!」
「あんまり大声出すと目立つよ」
「あっ。そうでした」
今オレと妹尾先輩が見回っているのは、芸能、音楽科棟の教室。2年1,2組の合同展示、コマーシャルだ。
そう。あくまでも見回り。別に楽しんでる訳じゃない。
「これホントに先輩達で作ったんですか?」
「うん。スマホで撮って、動画チャンネル持ってる子が編集してくれた」
「いやぁ……。すげぇ、本物みたい」
教室のホワイトボードに、次々に流れる架空のCM。飲み物、音楽、カードゲーム、洋服、ドラマ、映画……。ジャンルはバラバラで、中にはスポーツもあった。スキーとサッカーだったけど……。
「自己PR兼ねてる人もいるんだよね。学生時代にこういう事しました。って、事務所とかオーディションに持っていったり、文化祭に来たスカウトの目に止まる事も昔あったみたい」
「わぁ。業界の話」
オレの知らない話がポンポン出てくる……。
普通に喋ってくれてるけど、妹尾先輩って住む世界が違う人なんだなぁ。
「ほら、一応見回りなんだし、次の教室行くよ」
「はぁい」
もうちょっと見てたかったな。まだ妹尾先輩が出てるCMを見れてない。後で来るか。
「にしても、こっちに人が少ないの意外でした」
「ね」
芸能、音楽科棟の方が、それこそワンチャン芸能人に会えそうなのに。
うちの学校には4つの科があって、普通と美術、芸能と音楽、と、2つずつ校舎も分かれている。渡り廊下で繋がってる事には繋がってるけど、普段は授業以外での移動は基本的に禁止。オレもこっちの校舎に来るのは今日が初めてだ。
一般客だけじゃなくて、普通科、美術科の生徒も来てると思ってたけど……。
妹尾先輩が普通に歩けている。
人だかりができるどころか、教室にも、廊下にも、階段にも、人はまばら。
「普通科棟の方が、こう、文化祭! って感じするからじゃない?」
「そうですか? こっちもちゃんと展示物作って、発表までしてるんですから文化祭でしょ?」
「お化け屋敷とかないから」
「あー、確かに」
芸能界を知りたい人には向いてる展示だけど、学校の雰囲気とか、楽しさで言ったら普通科棟かも。
「姉ヶ崎くんって、お化け屋敷とか平気なタイプ?」
あんまり苗字で呼ばれる事ないからか、先輩に名前呼ばれるとムズムズするな……。
「全然平気です。遊園地とかにあるヤツも友達と行きますけど、オレが反応しなさすぎてつまんねー。ってよく言われます」
「へぇー、そうなんだ」
お化け屋敷のお化け役って、客に触れない決まりになってるってどっかで聞いた事がある。
まぁ、多少びっくりする事はあるけど、怖いとか叫ぶほどじゃないな。
「先輩は?」
「基本的には平気だけど、本格的なのはちょっと……」
「さっきのはどうです?」
普通科棟の1階にあった、2年生の出しもののやつ。
「わかんない。叫び声聞こえてきてたからなぁ……」
「じゃあ、見回り終わったら宇部先輩のとこでアイス食って、お化け屋敷一緒に行きません?」
「えっ? えぇ〜……」
えぇ〜。何かノリ気じゃない。今日知り合ったばっかなのに、馴れ馴れしかったか?
……あっ、もしかして、他の人と約束とかあったりした!?
「先輩、誰かと周る予定ありました? すみません……」
「いや、そういうんじゃなくて……」
最初のコメントを投稿しよう!