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そして彼女と同じクラスになってからもう一つ気づいていたのである。彼女の背中側にも、もやもやが見えることが。
成長するにすれ、子供達の中にももやもやがはっきり見える人が増えてくることに気が付いた。誰かに恨まれるようなことをする人や、嫉妬されやすい人ほど大きなものを背負っている傾向にあると。
ギャル少女が背負っているもやもやは、私が今まで見たものの中でも特に大きかった。あまりにも大きすぎて、華奢な彼女の体が潰れてしまうのではないかと思ったほどに。
紫色のどんよりとした煙の中には、たくさんの男の人の顔が浮かんでいる。どれもこれも、うらめしそうに彼女を見下ろしていた。そのため、私は一つの仮説を立てたのである。ひょっとしたらあれは、彼女が今まで適当に付き合ってきたセフレ達なのではないか。そして、向こうは本気で彼女の事が好きなのに、彼女にセフレとしてしか扱われずに恨めしく思って、その感情が背中までくっついてきてしまったのではないか、と。
『そうそう、で、その時の男ったらまあ情けなくて、始まってすぐ……』
その日も、彼女はいつも通り教室で猥談をしていた。そして教室の窓によりかかった瞬間。
『え』
彼女の体が、ふわりと浮いたように見えた。
『な、なにこれ……た、助けて!』
『え、え?きゃ、きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』
ギャル少女は窓が開いていることに気づかずに寄りかかってしまい、三階から転落したのである。よりにもよって、一番傍に友達を巻き添えにして。
その後のことは、正直思い出したくない。
ギャル少女も、巻き込まれた少女も、コンクリートの地面に叩きつけられて顔面がぐちゃぐちゃになった。たった三階の高さだったにも関わらず、だ。下を覗いてしまったことをあの時ほど後悔したことはない。
――まさか、あのもやもやが大きくなると……その人は、悪意に負けて死んじゃうの!?
しかも、もやもやを背負っていなかった友人一人を巻き添えにした。あれによって人が死ぬ時、誰かを巻き込む可能性は充分にありえるのだと知る。
――や、やだ……怖い……!
それからである。私が、あれが色濃く見える人間に近づかないようにしようと思うようになったのは。
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