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冷え冷えとしたリビングを、小学生の僕は中学生の兄ちゃんとともにひっそりと覗き込んだ。ああ、この様子では今日の晩御飯は飛ぶかもしれない。こっそりカップラーメンを食べるしかないかもしれないが、だとしてもキッチンはリビングの隣。僕達子供はどうすればいいのだろう。
「父さんと母さん、ヒートアップしてんな」
はあ、と兄ちゃんがため息をついた。
「ほんとマジでさあ。毎年十月二十日になると同じことで喧嘩して別れる別れる言い出すのマジでやめてほしいんだけど。離婚届何枚目だよ、結局出しに行くこともしないくせに」
「ほんとそれ」
僕もまた、深々と息を一つ。
「……大好きな漫画が連載再開するまで毎日二人でスクワット百回やって祈願します!なんて……なんで結婚する時に約束しちゃったのあの人たち?」
スクワットヒーローズ、というというスクワットで強くなるヒーローが主人公の超人気の少年漫画がありまして。
作者の持病により、何年も雑誌連載をお休みしておりまして。
オタクなお父さんとお母さん、オタクの夏の祭典で知り合って意気投合、燃え上がって結婚して、二人で“連載再開までスクワット続けようね”という謎の約束をしてしまいまして。
で、二人ともそこそこ年なので、年々続けるのがしんどくなりまして。
毎年、最後に掲載された日になると「もうこんなことやめたい」父VS「連載再開し続けるまでやるって約束したでしょ!」母のバトルが勃発して、自分達兄弟は巻き込まれるのである。
「どうせ明日には仲直りするのに、くっだらな……」
「弟よ、思っていても絶対言うんじゃねえぞ。殺されるからな」
そんなことあるわけない。
とも言い切れない自分が悲しかった。煮え詰まったオタクは怖い。マジで怖い。
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