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二人がお別れする理由
「もう無理だ」
彼は既に、私を見なかった。もう目を合せる価値なんかないとでもいうかのように。
「やっぱり、俺達がうまくやっていくことなんてできる筈がなかった。……好きなものが一緒より、嫌いなものが一緒である方が仲良くなれるって案外本当だったのかもな」
「何言ってるの?」
そんな言葉で、自分を正当化されたって誤魔化されない。最初に私を裏切ったのは彼の方だ。私は殴りたい気持ちを本気で抑えて、ぐっと拳を握りしめた。
「最初に私を裏切ったのは貴方でしょ。結婚する時に約束したじゃない、一緒に夢を追いかけるって」
困難な道なのはわかりきっていた。それでも、最期まで茨の道を突き進むのだと二人で手を取り合って誓い合ったはずだ。
彼は私と、同じ気持ちでいてくれると思っていた。
この人だけが私の胸にぽっかり空いた穴を埋めてくれると。同じものを愛して、同じ夢を追いかけて、同じ道をひた走ってくれる彼だけが。
でも、その約束は反故にされた。
彼は一人で、夢のレールから降りて逃げようとしている。私を置き去りにして。こんな馬鹿な事が許されるのだろうか。
「いいわ、離婚してあげる。私ももう、貴方には愛想が尽きたから」
私達が互いに離れる理由には、充分だろう。
「そのかわり……私は一人でも夢を追い続けるんだから。その必要経費として、慰謝料たっぷり要求するから覚悟しなさいよ!」
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