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プロローグ:希望
フランクール聖教国ーー。
この国の首都フランシにあるフランセル教大教会の大聖堂ーー。
そこは大勢の信徒を収容できる大講堂であると共に、その時代の聖者・聖女が日々を穏やかに過ごしつつ祈りを捧げ続ける場なのだという…。
「フランクール聖教国の国民からは『聖者』『聖女』が現れる」
と言われている。
その伝承に基づき、フランクール聖教国の教会では「聖者候補者・聖女候補者」を探す。
12歳になった子供達は貴族から貧民・孤児に至るまで全員「聖属性の有無」を判定する鑑定を受けなければならないのだ。
この鑑定で「聖属性有り」と判定が下され、聖者候補者・聖女候補者と見做されるとーー
貧民だろうが孤児だろうが大教会に引き取られて衣食住を保証してもらえる。
なのでフランクール聖教国の国民は皆こぞって12歳を過ぎて最初の夏至または冬至の日に最寄りの教会へ行って判定を受ける。
そんな社会の片隅で、ソフィー・ボワレーは
(聖属性が認められて聖女候補者になれれば家を出られる)
と夢見ていた…。
****************
ボワモルティエ男爵邸ボワレー家でソフィーの肩身は狭い。
ソフィーの父であるボワモルティエ男爵ギュスターブ・ボワレーは、ソフィーの母であるディアンヌが病死すると翌日には後妻とその子供達をボワレー家へ引き込んだ。
ソフィーが8歳の時の事である。
新しくソフィーの母となったコリンヌは露骨にソフィーを嫌い、同じ部屋で食事を摂る事さえ嫌がった。
義理の兄になったジョアキムも、義理の妹になったリゼットも、「連れ子」の筈なのに態度がデカイ。
ジョアキムに言わせるなら
「父さんと母さんは元々愛し合っていた」
「お前の母親が無理矢理父さんを奪ってこの家を乗っ取っていた」
「お前の母親のせいで俺達は今まで日陰の身に追いやられていた」
という事らしい。
ジョアキムもリゼットも婚外子であるもののギュスターブ・ボワレーの実子。
ソフィーとは母親が違う異母兄妹だった…。
「お前の母親のせいで長く我慢させられた、お前のせいで…」
というのがコリンヌ、ジョアキム、リゼットの3人がソフィーを憎み疎む共通認識である。
余程、ディアンヌの事が憎かったらしい…。
ディアンヌの子供であるソフィーに対しても
「あの女の子供」
と見做して憎む。
8歳の時に母親が死んで、その翌日からずっと露骨な嫌悪を向けられて、男爵家令嬢とは思えない待遇で虐げられた。
「顔も見たくない」
「側で生きてられるのさえムカつく」
そう言われて、ソフィーは母家から追い出され、蔵にしか見えない薄汚い離れ家に押し込められた…。
そんな生活が4年続いた事もあり、ソフィーはもはや
「貴族令嬢の普通の生活」
というものがどういうものだったのかをほぼ思い出せなくなっていた…。
(この家から逃げたい…)
とだけ思っていた。
ただ家を出るには仕事をして自分で稼いでいかなければならない。
職人ギルドに登録できて住み込みの徒弟制度を利用できるのが、これまた12歳から。
どの道、12歳になるまでは家を出て独り立ちするようなチャンスは無い。
12歳になって聖属性鑑定で聖女候補者に認定されてその後聖女になれば…
喰いっぱぐれる事なく生きていける筈…。
(もうすぐ…もう少しの我慢だ。12歳になればこの家を出ていける。聖女になれなくても職人ギルドで住み込みの弟子にしてくれる職人を探すんだ。絶対、この家を出るんだ。12歳になれば、全てが良くなる…)
そう思っていた…。
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