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「いいんだよ。俺のことは気にすんな」
中村は窓の外を眺めながら言った。光に照らされた横顔は、まるで後光が差しているようだった。
春菜は、胸が締め付けられるような気持ちになり、思わず彼の肩を抱きしめた。だが、その瞬間、中村は悲鳴をあげた。
「鎖骨にヒビが入ってるみたいなんだよ」
「あ、ごめん」
春菜は手を放して、うつむいた。
すると、中村は大声で笑いだした。
「何がそんなにおかしいの? こっちは心配してるのに」
中村は何も答えず、手のひらを差し出した。
春菜は、彼の繊細そうな手のひらをそっと握った。彼の体温が、肌を通してじわりと伝わってきた。
二人は、そのまま黙って窓の外を眺めた。密集したビルや高速道路の上には、雲一つない青空が広がっていた。遠くのほうを、飛行機が一筋の雲を引きながら通り過ぎていく。街は、日常そのものだった。
冷えていた春菜の手のひらが、だんだんと温まってきた。もはや、お互いの肌の温度差は感じなかった。まるで一つになったようだと春菜は思った。
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