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恐竜あらわる(2)
応接間の向かいの部屋には、木目調の引き戸が設けられていた。奥様が引き戸に手をかけ、敷居の上を滑らせる。
春菜の目の前に現れたのは、けっして綺麗だとは言いづらい和室だった。二間続きの床には、ささくれだった古い畳が敷かれていて、黄土色の壁はところどころ変色している。立派なのは、奥側の部屋の中央にある座卓くらいだった。
リフォームされた廊下や応接間との違いに、春菜は落胆した。想像していた職場とはほど遠い。ここで子守をするのか。これならば、自分が住んでいる市営住宅のほうがまだ清潔感があるように思える。
座卓よりもさらに奥へ目をやると、テレビの前に座る人影があった。あぐらをかいた背中は大柄で、頭髪には白髪が混じっている。奥様よりは若く見えるが、ある程度年齢のいった男だろう。
奥様はその男に近づき、春菜を指した。
「英樹、今日からこの人があなたのお世話をしてくださるの。挨拶しなさい」
男は春菜を一瞥しただけで、何も言わずにテレビへ向き直った。
「ごめんなさいね。この子、テレビに集中するといつもこうなの」
いまいち状況が飲み込めない。春菜は男に会釈をしてから、部屋の中を見回した。子供の姿を探すが、この部屋にはいないようだ。
「あの、私がお世話するお子さんはどちらでしょうか」
「あなた、きちんと理解していらっしゃるのかしら。この子が息子の英樹よ」
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