恐竜あらわる(2)

2/8
前へ
/195ページ
次へ
どういうことなのか、状況をはかりかねる。とりあえず何か返事をしなればと思い、春菜は半ば冗談交じりに、ありえない仮説を口に出した。 「そうすると、私はこの方を保育するということですか」 「そうよ。だから、わざわざあなたを派遣してもらったんじゃない」 奥様はそう言うと、再び男に挨拶を促した。振り返った男の口元には無精髭が生えていて、深いほうれい線が刻まれていた。肌は赤黒い。年齢は五十歳くらいだろうか。 彼は面倒くさそうな目つきで春菜を睨み、「こんにちは」と呟いた。 「私はこれから出かけるから、何か困ったことがあったら、この内線を鳴らしてちょうだい。山崎さんが対応しますから」 奥様は、座卓の上に置かれた電話子機を指した。 「あの……」 疑問が言葉にならず、春菜は口ごもった。 「じゃあ、あとはお願いしますね」 そう言い残すと、老女は足早に部屋を出ていった。 いったい何が起こっているのだろう。春菜は畳の上にたたずんだ。私はベビーシッターとして派遣された。ベビーシッターは子供の面倒を見る仕事だが、世話を任されたのは父親でもおかしくない年齢の男。やはり意味がわからない。 肩に下げていた(かばん)から、スマートフォンを取り出す。勤務開始時は会社に連絡を入れる決まりだったので、どちらにしても何らかの報告はすべきと考えてのことだった。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加