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つっかけるようにスニーカーを履くと、玄関戸を開けて外へ飛び出す。速歩きで飛び石の上を渡ったが、門扉の前で立ち止まった。頑丈そうな南京錠で、扉が固定されている。
後ろを振り向くと、あの男が玄関に立ってこちらを見据えていた。やはり、この家から一刻も早く出たほうが良い気がする。
しかし、塀は高くて登れそうになかった。少し先にあるシャッターは、地面までぴたりと閉まっている。周囲を見渡しても、敷地外に出る手段は見つかりそうになかった。
あきらめかけたとき、背後から声がした。
「どうかなさいましたか」
振り返ると、穏やかな笑みを浮かべた家政婦がいた。
「何か不都合でもございましたか?」
「……」
勝手に帰ろうとした気まずさもあり、春菜は返答に困った。
「お話をうかがいますので、中へどうぞ」
促されて、しかたなく家の中へ引き返した。玄関を通る頃、男の姿はもうなかった。
応接間のソファに腰掛けると、向かいに座った家政婦が口を開いた。
「初めてでは、戸惑われるのも無理はありません。心労が重なって、お坊ちゃまはあのような状態になってしまいました。玄関に南京錠を取り付けているのも、お坊ちゃまが勝手に外へ飛び出してしまうと危ないからです」
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