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手に持ったままの図鑑に目を落とすと、いかにも凶暴そうな恐竜が描かれていた。トカゲが二本脚で立ったような姿形をしている。何本もの鋭い牙が生えた口は、異様に大きい。そのくせ前足は異様に小さく、全体のバランスが悪い。
説明書きによると、最大級の肉食恐竜で、最大全長は約十三メートル、最大体重は約九トンにもなるという。奇妙な生き物だ、と春菜は思った。こんなものが本当に地球上に存在していたとは信じられない。
しかし図鑑から目をあげて、考えを改めた。あの男のような大人もいるのだから、想像を超えた生き物がいてもおかしくはない。自分は今から、恐竜のような奇妙な生き物を飼育するのだと感じた。
背中の視線を感じたのか、急に英樹が振り返った。
「もう、できた?」
「いや、まだです」
とりあえず描いてみることにする。春菜は立て膝の上にスケッチブックを乗せ、鉛筆を動かした。畳の上に置いた図鑑の絵を、ただ単純に模写していく。
このような作業は、春菜にとって簡単だった。小学生の頃に賞をもらったこともあるほど絵は得意だ。もっとも、中学校に上がる頃には他の同級生たちが上達してきて、絵を褒められることも減ってしまったが。
ものの十分もしない間に、恐竜の模写は終わった。
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