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恐竜あらわる(1)
電車を降りて駅前のロータリーを横切ると、車がひっきりなしに走っていた。春菜は、その大きな国道沿いを東へ向かって歩いた。
薄曇りの天気のせいで、もう四月に入ったというのに肌寒い風が吹いている。空を見上げた瞬間に水滴が顔にかかったので、鞄から折りたたみ傘を取り出した。
道なりに歩き、三つ目の角を右に折れると、世界が変わったように急にひっそりとした。整備された区画には、大きな邸宅が建ち並んでいる。
街路樹が植えられた歩道を進みながら、春菜は左右の家々を見回した。淡い色合いの洋風邸宅や、コンクリート打ちっぱなしのモダンな邸宅が品良く並ぶ様子は、まさしく高級住宅街そのものだ。
派遣先となる家はどんな建物なのだろうかと想像する。きっと古い市営住宅とは比べ物にならないくらい綺麗で広いのだろう。
緩やかな坂を一つ登りきったところで、春菜は立ち止まった。どうやら道を間違えてしまったらしい。引き返して坂を下り、通り過ぎてしまっていた角を折れる。もうそろそろ、目的の家が見えてくるはずである。だが、目的の場所には、薄汚れた石垣塀だけが建っていた。
「あれ、おかしいな」
春菜はひとりごちて、スマートフォンで地図を確認する。場所は合っているはず。隣の敷地には、南欧風の邸宅が佇んでいるが、目的地には建物があるようには見えない。
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