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奥様? この女性は保護者ではなくて、家政婦なのかもしれない。その奥様とやらに会うまでは気を抜けないな、と春菜は思った。
一礼をして門をくぐると、こじんまりとした日本家屋が現れた。木板やの壁は色あせていて、相当に歴史があるように見える。ただ、その傷み具合はひどく、周囲の豪邸たちと比べれば、あばら家と言ってもさしつかえない。
春菜は家政婦の背中を追い、家屋まで続く飛び石の上を渡った。左右に広がる庭の大部分は、乾いた土がむき出しで荒涼とした印象だ。たいして手入れもされていないようで、雑草もよく伸びている。
庇をくぐって建物の中に入ると、想像していたよりも清潔な光景が目の前に広がった。廊下の床板も、各部屋の出入り口に建て付けつけられた戸板も、新しそうな木材が艶っぽく光っている。外観とはうらはらに、中はリフォームで一新しているようだ。
家政婦は、玄関を入ってすぐの応接間へ入るよう促した。春菜はたたきの上に靴を脱ぎそろえ、廊下に上がった。数歩進んで応接間に入ると、和風の外観に似合わない洋室だった。
この部屋もリフォームされているようだ。壁紙は真っ白で、天井からはシャンデリアが吊り下がっている。どこか寂しい印象を与えるのは、置かれている家具が少ないからだろう。
「お待ちしてましたよ。あなたが東川さん?」
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