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「的場さん・・・!! そればっかりダメだって!!」 「いいじゃないですか!! 私はこれが好きなんです!!」 派遣さんが焦った様子で私を静止しようとしてくる。 静止させる動きをかわしながら、私はやめない。 やめない・・・。 やめられない・・・。 「的場さん!! カルビばっかり食べ過ぎだから!!」 夕方の面接で一旦終わり、約束通り焼き肉に連れてきて貰った。 「俺だってカルビ食べたいから!!」 「食べればいいじゃないですか!」 「他の肉どうするつもり!?」 「私はカルビと大盛りご飯だけしか頼まなかったのに、そちらが他の肉を頼んだんですよね?」 「それはそうだけど!! まさかカルビだけしか食べないとは思わないって!!」 「それはそちらが勝手にそう思ってただけですよね?」 そう答えてから、良い感じに焼けたカルビを・・・ 取ろうとした瞬間、派遣さんのトングがサッと私のカルビを取っていった。 取られた・・・。 取られた・・・。 取られてしまった・・・。 「私のカルビが~!!!」 「一緒に食べようよ!一緒に!! もっとカルビ頼むから!!」 派遣さんがそう言ったので、テーブルにあったベルで店員さんを呼ぼうと手を伸ばした。 手を伸ばした瞬間・・・ 派遣さんの手も伸びてきたのを把握した。 それでも私は手を引っ込めず・・・ 派遣さんと同時に、ベルの押す部分に触れた。 ベルをどちらが押したのか分からないくらい同時だった。 そして・・・ ベルの上、そこで派遣さんの指先と少し触れ合っている自分の指先を見て・・・ サッと手を引っ込めた。 引っ込めた手を正座していた膝の上に戻す。 こういうのは苦手だった。 私はとにかく、こういうのが苦手だった。
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