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「実家で一人暮らしって凄いですね。 広いんじゃないですか?」 「3LDKのマンションだよ。 1人だと寂しいから遊びに来てよ。」 そんな言葉までサラッと言って、言い慣れていそうなその台詞に微笑み返した。 「他の方を誘ってください。」 「好きな女の子誘わないで何で他の人を誘うの? そんな意味不明なことしないでしょ。」 そう返事をされてしまって・・・ 「それに、誰も入れたことないよ。 大学の途中からあそこにもほとんど帰ってないくらいバイトしまくってたから。」 「そんなにバイトしてたんですか?」 私が聞くと矢田さんは凄く嬉しそうな顔で笑った。 「最初は何の冗談かと思ったけど、あそこまで大歓迎されると頑張りたくなってね。 それに・・・」 矢田さんが言葉を切って悲しそうな様子で視線を前に移した。 その視線を追っていくと・・・ 秋の夜、暗くなっている電車の窓ガラスに映る矢田さん・・・。 その矢田さんが・・・ 窓ガラス越しに私を見詰めている・・・。 「それにその頃、ずっと好きだった子のことを諦めたばっかりで。 特に目的もなく毎日を過ごしてたから、良いバイト先と出会えてラッキーだったよ。」 矢田さんが凄く嬉しそうな顔で・・・めちゃくちゃ嬉しそうな様子でそう言った。 “ガンガン攻めさせてもらう” そう言った時から、矢田さんの様子は分かりやすくなった。 見えてしまう・・・。 五感全てで、よく見えてしまう・・・。 大学生の時、ずっと好きな子がいた矢田さん・・・。 こんなにモテそうな矢田さんが諦めたらしい・・・。 それに微笑み返しながら、矢田さんの視線から逃れたくて窓ガラスに映った自分の方を見た。 真っ黒な背景の中に、可愛い女の子が立っていた。 黒くて長い髪の毛の、可愛い女の子が立っていた。
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