トワ

14/14
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
   夜が明けて、朝陽が城を紅く染める。  階段の上で一晩中、美しい人を想いながら座っていた王子が目覚めると、そこにはさっきまでなかったはずのガラスの靴が片方だけ落ちていた。彼は靴を胸に抱きしめて喜んだ。 「あの人を探せる!」  同じ朝陽に照らされた屋根裏部屋でエラは起きた。彼女の腕の中で眠るアンとデュー、そして昨夜、魔法が解けた瞬間に消えてしまったはずの片方だけのガラスの靴。 「どうしてここに靴が?あら、トワは?どこにいるの?出てきてちょうだいな」  いつもなら腕の中にいるはずのトワを屋敷中くまなく探すエラの前に、森の崖の下、銀髪のおかっぱの、青白い肌ではあるが誠実そうな面立ちの、まだうら若き妖精の青年の亡骸が生き生きとしたねずみの姿で現れることはもう二度となかった。  やがてガラスの靴の持ち主を探す王子からの使いがエラの屋敷を訪れた。  ガラスの靴は持ち主のエラにぴったりで、もう片方も持っていたエラは瞬く間に城に招かれて王子に求婚され、週に一回はお掃除をしに住み慣れた屋敷を訪れることを条件にプロポーズを受け入れた。  それからほどなく、お城の見える小高い丘の林檎の木の根元に小さな十字架の立つお墓ができた。その墓には時折、どこからともなく薄汚れたマントと服を着た老婆とその両肩にちょこんと乗った二匹の小さなねずみが現れて祈っていく。   彼らだけがあの城の宝石箱の中に大事に納められているガラスの靴の真実を知っている。シンデレラを愛してしまったがゆえに、彼女の一晩の夢を永遠に変えて死んでいった三番目のねずみの愛のものがたりを。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!