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プロローグ
「鬼やらい、鬼やらい——」
立春に行われる鬼狩り。
今年十歳を迎えた風見凪子は、窓から落ちてきそうな満月に釘付けになった。
「名は?」
満月の中に、黒髪の貴公子が映り込んでいた。
「……風見凪子」
慈しむように髪を撫でられ、幼い凪子は答えていた。
「凪子。今宵のような満月に、きみを必ず迎えにくる。それまで、いい子でいるんだよ」
「はい……」
かすれた貴公子のテノールに耳元で囁かれ、凪子はただ首肯していた。刹那、首筋にずくりと鈍い痛みが走る。
鼓動を止めない限り、その痛みは止まらない気がした——。
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