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次の日、学校が終わってからお母さんの病院へ行った際、ゴミげんと鉢合わせになった。
お母さんは、点滴の接続が外れてしまったせいでパジャマが濡れたらしい。ナースステーションの前を通る時、看護師さんから聞いた。病室に入ってすぐに、ビタミンと甘い液が混ざったみたいななんともいえない匂いがしたのですぐに病院のコインランドリーへ向かった。そこに、ゴミげんがいた。
「おう!」と、友達みたいに手を上げ、ニコリとしてきたゴミげんに対し、私は軽く頭を下げた。
ゴミげんも洗濯を待っているのか、30と赤い文字で書かれている洗濯機の前の椅子に腰を掛けていた。学校の帰りに寄ったのか制服だった。隣には汚いリュックが置いてある。前見た時は気にならなかったけど、リュックには恐竜のキーホルダーがたくさん付いていた。
「五味君も、洗濯?」
ここには学校の友達もいないし、黙っているのも息苦しい感じがしたので、私も洗濯機に衣類を入れながらゴミげんに声をかけた。
「ああ。俺は毎回ここで洗濯して帰るんよ」
いつもよりも落ち着いた口調の彼に、少し驚いた。普通に話すと、少し低めの掠れた声なんだ。
「へぇー。偉いね」
「俺しかおらんからなぁ。オトンの世話するの」
「……」
「この前、検査のデータ悪くてオトン入院したんよ」
そうなんだ。ゴミげんはあの足の悪いお父さんと二人暮らしだったんだ。お母さんは出て行ったって噂は本当だったっぽい。これ以上家族の話は反応に困りそうだったので、私からは訊かなかった。
「そうだったんだ。五味君も大変だね……」
ゴミげんが微笑みながら頷いて私のほうを向いた。日に焼けているのか地黒なのかわからないけど、肌の色が浅黒かった。
「河井さんは?ここ使うの初めて?」
「いや、そんなことないよ?すぐ洗濯したい時たまに使う」
「そうなんじゃ。けど初めておうたね!」
「ふふ。そうだね。今日お母さん点滴漏れちゃってさ、臭いからすぐ洗濯したくて!リースの病衣契約したら楽なんだろうけど、高いからさぁ……」
「ありゃ、そりゃ最悪やね。わかるっ!!病衣高い!一日三百円は、ふざけちょる!」
体を揺らして共感してくれたのはありがたいけれど、耳が壊れるかと思った。やっぱりこの人声のトーンおかしいな。
ゴミげんが立ち上がった時に彼の靴がチラッと見えた。忙しいのか、ズボラなのか、お金がないのか。彼の靴は、先が破れかけ、底もすり減っていて汚なかった。
ただ、この前並んで歩いた時気付かなかった。ゴミげんてすごく背が高かったんだな。
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