恐竜に乗れた日

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 「パジャマ洗濯してくれたの?ありがとうね。希菜子」  お母さんは、ほとんどお粥みたいな晩御飯を食べながら申し訳なさそうに私を見た。  「全然いいよ。それより点滴の接続、気をつけてね」  私はお母さんの胸の上らへんから出ている細いチューブに目をやった。先生の説明では体の太い血管にこれがつながっているらしい。今回は接続部が外れただけだったけれど、チューブごと抜けたらたくさん血が出るから気をつけてと言われていたのを聞いて、とても怖くなった。  お母さんは「あはは。ほんと、気をつけないとね。寝返りの時引っかかったかな?」と呑気なことを言っていた。  「看護師さんもどうして気が付かなかったんだろう。これ結構な医療ミスじゃない⁈」  「まあまあ。看護師さんはとっても忙しいのよ。お母さんが気をつけるよ?」  「いやいや、仕事なんだから、忙しいは理由にならないよ〜」  「厳しいなぁ。希菜子は」  「ふつーだよ〜」  あまりにお腹が空いていたので、お母さんの隣、申し訳ないけれど、売店で買ったメロンパンを食べた。その時、お母さんに初めてゴミげんの話をした。  「同じ学校の子のお父さんがね、ここに入院してるんだ」  「へぇー!そうなの?男の子?」  「うん。あんまり仲良くはないんだけどさ、ここ来た時、よく顔合わせるんだ」  「えー、どんな子かなぁ。中学同じ?」  「いやぁ、多分お母さんは知らないよ。高校入ると同時にどっかから引っ越してきたみたいだから。どこだっけな、広島だっけ、わかんないけど」  「ふーん」  「とにかく声とか仕草がでかくてうるさい子なんだ」  「あははは!いいじゃない。元気で」  「あれを元気っていうのかな…」  なんて言ったらいいのだろう。ゴミげんってうるさいし、同い年なのに仕草とかが絶妙におじさんくさいんだよな。コインランドリーでの彼とのやりとりを思い出して一人頷く。いやもしかするとおじさんだったりして。今流行りの転生的な。なんてすごい勝手な妄想をしてしまう私は結構馬鹿なのかもしれない。  彼女とかいたらどうしよう。でも、彼が女の子と手を繋いでいる姿は一瞬たりとも想像できないし、キャラに似合わなすぎる。というより、似合う女の子が一人も浮かんでこなかった。流石に失礼すぎると感じた私は、もう彼の事を考えるのをやめようと思った。  帰り際、踏切で遮断機が開くのを待っている時、突然またさっき見たゴミげんの靴を思い出して、いやぁ、あの靴じゃ絶対付き合えないな。と一人で笑った。    
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