恐竜に乗れた日

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 今日みなみちゃんに言われたことを伝えようと、森君と二人、公園のベンチに座った。  ここは、彼と初めてキスをした場所だ。  彼が来てすぐは本題に持ち込めず、学校でのちょっとした出来事と、駅の近くに出来たパン屋さんの話をした。そのパン屋さんに、今度みなみちゃんと行くってことも伝えた。  「あの」  「ん?」  「……ん、あのね。みなみちゃんから聞いたんだけどさ」  「あ、うん!」  みなみちゃんの名前を出したとたん、森君は声を大きくして前のめりになった。  私の発言を期待しているのだろう。だからこそ本心が言い出し辛い。  今、午後7時くらいだろうか。学校の帰りに遊んでいた小学生の子供たちはもういなかった。  森君と二人きり。強めの風が木の葉をザラザラと揺らした。  「あはは。うーん。なんか恥ずかしいな」  「え、何だよー⁉︎」  わからない振りをしているけど、話の予想は付いているのだろう。森君の口元はニヤついてる。  「私ね」  「うん」  「色々考えたんだけど。なんていうか、体の関係になるのはもっと仲が深まってからにしたいんだ」  「……。え⁉︎……あー」  やっぱり、私の返答は森君の理想とは違ったみたい。さっきまで溌剌としていた森君の表情が、みるみると元気を失っていく。  「俺らは、まだ仲良しじゃないってことか」    「違!そういうわけじゃなくて。ほら、三か月後の私か森君の誕生日とかじゃ駄目かなぁって」  「三か月後……」  「……うん。えっとね、私は、なんだけど。そういうのは特別な日にしたくて」  「あー。……あはは。了解」  森君は首を傾げて笑っていたけれど、その笑顔は引き攣っていた。  「森君の事は大好きだよ?でも私やっぱりまだ心の準備ができてないっていうか……」  「うん」  「……ごめんね」  「しゃあないよ。……。でもやっぱり希菜子真面目すぎるよなぁ。俺の女友達、みんなしてるよ?」  「そう?私の友達は、多分みんなしてないと思うけどな」  森君はまた、首を傾げた。  「私達、付き合ってまだ二か月だし、もう少し待ってほしいな。それにもし妊娠したらって思うと」  「わかったよ」  唇を噛んでうつむいていた顔を上げると、森君の顔からは完全に笑顔が消えていた。  さっきまでなんともなかったベンチの上が、今とても居心地悪い。森君は、くっつきそうなくらい近くに座っていたのに、私から距離を取りスマホを触っている。  「あの、キスとかハグとかそういうイチャイチャとかは、全然したいんだよ?」  心なしか、声が小さくなる。  「あ、うん」  その後彼はずっとスマホをいじっていて、私が話題を振っても「うん」ばっかで。私の顔はずっと見てくれなかった。  帰ろっか。となって、一応私を送ってはくれたけど、ほとんど無言の帰り道は山を一つ超えたんじゃないかと思うくらい長く感じた。  眉間に皺を寄せながら早足で歩く彼を見る度に、心臓の奥が苦しくなった。  私の家の前に着いて、一応「バイバイ」と言うと、不貞腐れたような顔だったけれど、彼も「バイバイ」と返してくれた。  その時だけ、まともに顔を見てくれた。  当たり前だけど、キスはしてくれなかった。  
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