恐竜に乗れた日

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 ある日の放課後、中学の頃の友達、おキョン、本名佐田京香と駅前のファーストフード店で会っていた。中学の頃、部活も放課後も一緒で一番長く過ごした親友だ。お互いの近況について話をしていたら、スマホが鳴った。アプリの通知だろうと思い、会話しながら何気なく画面を見た瞬間、呼吸が止まった。森君からだったからだ。   〝元気、明日出かけない?〟  私はこの前森君と公園で別れた日から、もしかしたら彼とはもう話せないのかもしれないと思っていたのに、あれから三日後、彼は普通にLINEを送ってきた。  少し前までは私を蔑むような目で見ながらそっけない対応をしていたのに、どうしてこんなに何もなかったかのような誘いのメッセージを送って来れるのだろう。  まるで自分は上の人間だから、下の人間の私は従って当然のような態度。  森君はそりゃ、運動神経も良く髪の毛もサラサラしていて、流行りの女子グループとも交流が深い。女の先生だって森君には甘かったりする。  だからって、何してもいいわけではないと思う。私の中に、彼に対して今までなかった怒りの感情が、ふつふつと沸き出ていた。  みなみちゃんと、私を除け者にするみたいに喋っていたくせに。  思い出すとほっぺたを引っ叩きたくなる。背中を壁にもたれさせて、目だけニコニコの格好つけた顔。  付き合い出して一週間は、私にも気を遣った態度だった。けれど考えてみれば、日が経てば経つほど、徐々に私のことを見下しているような対応が目立っていた気がする。  それは雨に濡れた自転車が、気付かないうちに錆びていくみたいに自然で。だから私もはっきりとはわからなかった。  確実なのは、私への想いは一瞬で錆びてしまったこと。    悔しかった。私は彼から大切にしたいと思われていなかった。もしくは、私に欠点がありすぎて大切にしたいと思う気持ちが一瞬で削げてしまったか。  きっと相手がみなみちゃんのような可愛い娘なら、森君は、濡れた自転車を毎日丁寧に拭き上げることを怠らなかったのだろう。  そう思うと、子供のように泣きたくなった。    〝行く〟と送りたいところだけど、これじゃあまるで都合のいい女だ。振り回されっぱなしはまた森君が調子に乗るだろうし、私は彼の誘いを断ろうと思った。  実際、ゴミげんに誘われた病院のコンサートもあるし。行くつもりなかったけど。  「おーい」  会話を遮ってしまっていたため、おキョンが私の顔の前で手を動かしていた。窓拭きしているような手付きで左右に振られた手の隙間から、おキョンの色白の肌と三つ並んだホクロのある目元が見え、ハッとして我に返った。
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