恐竜に乗れた日

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 「それでね、私が洗濯物畳むくらいやってよ。って言ったら、お父さん達なんて言ったと思う?」    床頭台にの上に置かれた花瓶の水を替えながら、私はぶつぶつと文句を垂れる。  ちょぼちょぼっと花瓶から流した水の音に混じってお母さんは「何て言ったの?」と、笑って訊いてきた。  「今手離せないから、無理〜だよ?じゃああとでしてって頼んだらさ、解ってるって言うくせに、次の日もやらないの!」  「あはは。いつものことだねー」  私がこんなにイラついているのに、ずっと笑っているお母さんに少しむっとしてしまう。第一、お母さんが何でもかんでもやりすぎていたから、あいつら男どもは調子に乗っているというのに。  蒸し暑くて窓を開ける。  雨っぽい匂いとともにゴーという飛行機の音が聞こえた。  「笑い事じゃ無いってば!お母さんが病気になったのだって、きっとあいつらのせいなんだから!もう私本気で疲れたぁ。あと一か月もやつらと二人なんてマジで無理かもしれない」  「希菜子」  「……。何?」  「苦労かけてごめんね」  私の肩に手を置き、笑いながらもシュンとして謝るお母さんに、小さくため息を吐いた。    「いや、別にお母さんは、悪くないんだけど……」    そんな申し訳なさそうに謝られたら、こう言わざるおえない。  週4パート勤務のお母さんは、お父さんにほとんど口答えをしない。  お父さん方のおばあちゃんも、お父さんと弟がやればいいことをわざわざお母さんに頼むし。だからあの二人は、自分のことも自分でやらなくてもいい。と勘違いしてしまっている。  今や、男も家事育児をやって当たり前の世の中へシフトチェンジされているのに、ウチは一ミリも変わらなかった。  あの日、朝からお腹が痛くて吐きそうだと言っていたお母さんの言うことを聞き流していた彼ら。トイレの中でうずくまっていたことに気付きもせず、それぞれ自分の趣味を謳歌していた二人を見た時、本当に開いた口が塞がらなかった。  ずっと家にいたあの人達でなく、外から帰ってきた私が救急車を呼んだのだから。  命の危険性は無いから良かったけれど、家族の一大事に何もできないなんて人として終わっているように感じた。    
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