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お母さんが運ばれた瞬間は、お父さんも仁志もさすがにバツが悪そうな顔をしていた。
それでも二人がお母さんの側に駆け寄って慌てふためきだしたのは、おばあちゃんと私が手続きを済ませ、お母さんが洗浄や検査を全部終えて、ベッドの上で眠った後だった。
単純なこと。点滴が繋がっているお母さんを間近で見て、ただ事じゃないと思ったんだろう。きっと。
心配と疲れで泣いてる私を見て、さすがに何か思う所があったのか、お母さんがいない間は三人で協力して家のことをするってお父さんが言い出したのに、三日も経つとその約束は忘れられていた。
お父さんはお母さんの顔を見に行くために着替えは持って行ってくれるけど、その他は仕事に追われてほとんどできていない。
八割くらいのことをしている私に「悪いな」と一応声をかけるけれど、私がお父さんと仁志ももっとやってほしいと口答えをすると、俺は仕事をしているからと言い訳をする。
私だって、学校に行っているのに。その後私にだけ、おまえは女なのだからやって当然だろ。と言うような表情を見せる。
仁志も、ごめんと謝ってくるだけで、マジで何もやらない。友達とSNSばかりしている。
二人とも、週に3回ご飯を作って持ってきてくれたり洗濯物を畳んだりしてくれるおばあちゃんに、甘え切っている。
お母さんにはまだ言っていないけれど、私は、今の高校を卒業したら就職してお母さんと二人で暮らしたいな。って思っている。
なぜなら、お父さんは自己中すぎると思うし、仁志とは単純に性格が合わない。小さい頃から思っていた。それに、これは内緒だけど、お母さんは昔、ネットで安い物件を見たり、何度も自分のパート代だけでやりくりできるかの計算をしていた。
私はそれを知っていたから。
「あー……家帰りたくない。私今日ここに泊まろうかな」
柔らかな日光の差すお母さんの足元に突っ伏せながらぼんやりとつぶやくと、お母さんは私の頭を撫でながら「ここ二人部屋だから泊まれないわ。ありがとうね」と、言った。とても優しく、やんわりと拒否された。
ずっとほとんど点滴しかしていないせいか、ふっくらしていたお母さんの手は鶏ガラのように痩せていた。
一緒にプリンを食べた後、二人で中庭を散歩して、私は家に帰った。
途中、飲み物が欲しくて近くのコンビニの前に自転車を停めていると、サビサビの自転車に乗ったゴミげんが私の前を通り過ぎて行った。風のように速かった。
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