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狭い部屋が煙だらけになっている。換気扇を付けていても追い付けない。密度も高く部屋も暑いのでゴミげんは窓を少し開けクーラーを強めていた。
煙が収まり、最後の一枚を焼こうとした際、ゴミげんのおじさんが、「ベタベタいらいんさんな。キャベツ、焼きそば、卵、最後にもう一枚の生地を乗せ、五分くらいじっと置いておく。そうすると上手に焼けるけん」と座椅子に座ったままつぶやいた。
もう少し早く言ってくれないかなぁと思いながらも言う通りにしてみると、なんと本当に上手く焼けたのだ。
「おじさん出来たよ!めっちゃ綺麗!」
おキョンと二人でおじさんに見せに行くと、おじさんはニコッと笑うだけだった。
その後また、私とおキョンに昔の話をたくさんした。けれど、その中に隣の六畳間の恐竜の話は出てこなかった。
みんなで笑ってお好み焼きを食べて、なぜかその後トランプをした。最初は乗り気じゃなかったけれど予想以上に盛り上がった。眼鏡君は塾が、おキョンはバイト終わりの彼氏と会うため、夜七時くらいには解散になった。
眼鏡君とおキョンがいなくなっただけで一気に静かになった。声は全然ゴミげんとおじさんのほうが大きいのに、人が多いだけでこんなに騒がしさが増すものなのかと実感する。
おじさんは疲れたのか、私とゴミげんが食器を拭いている隣、口を開けてだらんと眠っている。
そういえばおじさんコーラ飲んでいたのあれ、良くないんじゃないの?今本人寝ているし、ちょっと聞いてみよう。そう思ってゴミげんを見た。
「今日おじさんさ」
「うん」
「コーラ飲んでたし、お好み焼きもみんなと同じようにソース付けてたけど、あれ、大丈夫なの?」
「……。あぁ」
開きっぱなしだった蛇口を閉め、タオルで手を拭いてからゴミげんは私のほうに視線を下げた。
ゴミげんは背が高いからお互い立っていると、見上げる感じになる。
「おとん、もう長ないんよ」
「……」
突然、空気が無音になった気がした。
私は食器を拭く手を止めて、ゴミげんを見た。
見えてはいないけど、机の上を片付けていた馬場さんの動きも止まった気がした。
「腎臓以外にも悪い所あって、それは透析じゃ治らんのよ」
「………」
「だから、もう好きなもの食べさせてあげたい」
「……そっか」
それ以外、私は何も言えなかったし、ゴミげんの顔も見れなかった。心の中が圧迫されたように苦しくて、なぜか私が泣いてしまいそうになった。
正論を振りかざすみたいに、彼らを正そうとしていた自分のことも少し恥ずかしかった。
おじさんは相変わらず眠っていて、状況を悟ったのか、馬場さんは机の片付けが済んでも話に入ってこなかった。
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