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「河井さんって厚生記念病院に誰か入院してる?」
月曜日、下駄箱を通り過ぎた辺りで、ゴミげんに話しかけられた。
学校で声をかけられると思っていなかったから驚いたけれど、「うん。お母さんがしてるよ」とそっけなく答えた。とりあえず、周りがとても気になった。ゴミげんと仲良いのかな。と思われるんじゃないかって。
「大変じゃね」
「うん。まあ」
早足で歩きながら、最低限質問に答える。
「家の事はどうしよるん?」
喋りかけないでオーラを出しているのに、ゴミげんには効かないみたい。私の早足に合わせて付いてくる。
「今は全部私がしてるよ」
おばあちゃんもしてくれてるけど。
「……ほぉ〜。」
クラスメイトの佐良と井上が、瑠奈ちゃんとやっぴーが一緒に廊下を歩く私とゴミげんを珍しそうに見ている。私からは質問をせず、ゴミげんの顔は見ないように淡々と会話を続けた。あくまでも、私は話したくないのにゴミげんが話しかけて来るから仕方なく答えています。という見え方を意識して。自分の性格の悪さにうんざりしてしまうけど、仕方ない。私もゴミげんと同じような感じだと思われたくないもの。
ゴミげんは、あごに手を置きながら眉間に皺をよせ、口を窄め、中年のおじさんがするような表情をして、次の話題を考えているみたいだった。何様なのかわからない私は、もちろん自分から会話を続けようとはせずに、この前と同じように、ジッパーが開いて中身が落ちてしまいそうなゴミげんの鞄を見ていた。
「おい。ゴミげんどの。リュックが開いているぞ」
しばらく沈黙のまま歩いていると、彼の友達らしき人がニタリと笑って背後から声をかけてきた。
眼鏡をかけた、背の低い天然パーマの男の子。名前は知らないけれど助かった。
「えぇ⁉︎まじすかぁ⁉︎」
背中をのけぞらせながら過剰な反応を見せるゴミげんに向かって、眼鏡君は「お前さんのリュックは妖怪か何かかい?」とボソリとした声で訳の分からない突っ込みをしていた。
「どういうことじゃ!それは」
「ふふふ、特に意味はないですよ」
変な会話を交わしている彼らから自然に離れることができた私は、逃げるよう自分のクラスへと向かった。
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