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「ごめんな」
「え、何が?」
「おかんちょっと無愛想じゃろ。でも悪気全然ないけん」
「あー!全然大丈夫。こんな時間までいた私が悪いよ」
風が冷たくなって気持ちがいい。虫やカエルの鳴いている声が聞こえる。
「親御さん、大丈夫?」
「今日は遅くなるって連絡したから大丈夫だよ」
「ならええけど。あと……気になってたんじゃけ訊いてもええ?」
「ん?」
「結構俺ん家来とるけん、彼氏さんとか何も言わんの?」
「あー。言ってないから大丈夫。それにさ、実は彼氏と、上手くいってないの」
「そうなん」
「うん、多分私のこと好きじゃないから、ゴミげんの家行ってることバレても、何とも思わないんじゃないかな。うん」
「どうしてそれで付き合いよるんか、わからんわ」
言った後、ゴミげんにしては珍しく鼻で笑った。
「……そうだよねー。ふふ。もう別れようかな」
「え⁉︎」
「そんな驚く?ゴミげんが言ったんじゃん。それで付き合ってる意味ないって」
「……いや、俺は別に」
「あはは、うそうそ。それより男の子にちょっと相談」
「何?」
「男の人ってさ付き合ったら絶対やりたいの?」
「……。や、それは、……俺は知らん」
ゴミげんが私と逆の方向を向く。目を合わせてくれなくなった。そう言えばこの人、うるさいくせにシャイだった。やってしまった。調子に乗ってこんな事訊くんじゃなかった。顔が熱くなっていく。巻き戻しして言わなかった時間に戻りたい。
大切な人がいなくなるかもしれないのだから、ゴミげんは今すごく辛いだろう。少し前まで、もしかすると彼は私に気があるんじゃないかって勝手気ままなことを思っていたけれどそんなわけない。今のゴミげんは人を好きになる余裕なんてきっとないはずだもの。
「嫌なら嫌言うたほうがいい」
「……あ」
「さっきのこと」
「うん。ありがと」
「あー、オトンが死んだら、俺多分オカンと住むんじゃろうな。あー、また引っ越しか」
「……。え」
ゴミげんは、固まる私をチラッと見て「じゃけん、まだ殺すなって怒られるな」と控えめに笑った。
私はいい返しが見つからなかった。見つからずにぼんやりと、ゴミげんの隣を歩いた。
口数の減った私に、ゴミげんは気遣って色々話を振ってくれる。それなのに、どれも上手く広げられないまま家に着いた。
「今日はありがと〜楽しかったわ」
「私も、楽しかった。送ってくれてありがとう」
「おー。じゃあ」
「ん。じゃあ」
さよならを交わしてから家に入り、ただいまとだけ言って2階へ上がった。
真っ先に窓を開けて外を見ると、まだ歩いている後ろ姿のゴミげんを見つけた。突き当たりを右に曲がっていった彼はやがて見えなくなった。
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