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「希菜子ー!」
二階のベットでうずくまっていると、大きな声でお父さんから呼ばれた。けれど無視して寝たふりをする。
「希菜子!下りてきなさい!」
寝たふりを通そうとしたけど、喉も乾いたし、渋々リビングへ向かった。
そっと中へ入ると、仁志とお父さんが散らばった洗濯物を畳んでいた。畳み方が適当すぎて文句を言いたくなるけど、今はそんな元気がなかった。
「10時までには帰って来い」
「……はい。ごめんなさい」
素直に謝る私に驚いたのか、お父さんは私のほうを振り返った。冷蔵庫を開けてお茶を出し、それをコップに注ぎ、ゆっくり飲む。
ごくり、ごくり、冷たい水が喉を伝っていく。
冷蔵庫を開けて、お茶を直す。
また、お茶を飲む。
ぎゅっと唇を噛む。やばい、なんかわけもわからず泣きそうになってきた私は全力で平然を装う。
その時、お父さんに声をかけられた。
「希菜子、どうした?」
私別に泣いていないのに、どうしてそんな言葉をかけるのだろう。いつも周りのことに無関心なはずなのに。今そんな声かけされたらさ。
「希菜子?大丈夫か?」
一気に目頭が熱くなって視界がぼやける。
バレないようにさりげなく指で涙を拭うけれど駄目だった。
お父さんと仁志はじっと私のほうを見ているから、泣いている自分を隠せなかった。
意味不明な悲しみはヒートアップしていき、気が付けば不細工な息継ぎをしていた。
「姉ちゃん、マジでどうした?」
「わからない。でもなんか私本当に駄目だなーって」
両手で流れてくる涙をただただ拭う。
「いや、明らか俺と父さんのほうが、駄目でしょ。ね?」
「そうだよ。希菜子もこの前そうやって言ってたじゃないか」
私は目一杯首を振る。
「私、ぜんぜん人に優しく出来ないしっ。要領も悪いしっ。きっとみんなにもあまり好かれてないし、家族にだって、冷たくしちゃうっ」
「誰だってそうだろーっ。気にしすぎ」
「全部器用にこなせて、優しい人だってたくさんいる!それなのに私は、何も出来ないのに気の利いた言葉もかけられない。大事なことも言えないっ。なんでこんなんなんだろう。ぜんぜん、ちゃんとできないぃっ。っぐ」
お茶を片手に泣いている私を、仁志は困った顔で見ている。お父さんは、フローリングを見つめ眉を潜めていたけれど、急に立ち上がったと思ったら。「希菜子、仁志。ドライブでもしようか」なんて言い出した。
「は?今から?」
「明日土曜日だから良いだろう?」
「俺部活あるし」
「そんな時間かかんないよ」
まさかの急なドライブ発言にパンチされたかのよう、私の涙は引いていった。
私と仁志は目を合わせ、首を傾げて笑いながらお父さんの車に乗り込んだ。
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