恐竜に乗れた日

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 今日は放課後、彼氏の森くんと遊ぶ約束をしている。遊んだ後家のことをしなくちゃいけないから正直厳しいんだけど、森くんと会えるなら頑張れるような気がした。  その時森くんに、今の家の状況がしんどい事を話してみようと思う。森くんはかっこいいし優しいからきっと、親身になって相談に乗ってくれるはずだ。  下駄箱でスマホを確認すると、〝終わったよ。今からシャワー浴びるから十五分後に家に来て〟と、彼からLINEが入っていた。  〝りょーかい〟の文字と、ハートを持ったうさぎちゃんのスタンプを送った後、私は鼻歌を歌いながら髪をとかし、マスカラとファンデーションを塗り直した。一度失敗して目頭にくっついたマスカラを、落とすのが大変だった。  森君のマンションの前まで来てすぐに〝着いた〟と送信した。予定より三分くらい早かったけど、森君はシャワーを済ませていたみたいで、すぐに玄関の扉を開けてくれた。  少し濡れた、細いストレートの髪の毛がいつもよりも大人っぽく見えて靴を脱いでいる間、ドキドキした。  「お邪魔します」  家にお邪魔させてもらうのは、初めてではない。三回目だ。いつもお母さんがいるのだけど、今日は用事でいないらしい。  「誰もいないけど」    森君はそう言って笑うと、私を部屋に案内し、水色のコップにお茶を入れて持って来てくれた。  私は、自分のくたびれた生活のことなんてすっかり忘れ、真っ白な壁に貼り付けられた知らないバスケットボール選手のポスターを眺めながら、味の薄い麦茶を飲んだ。
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