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「なんでそう思う」
「……私があの日我儘を言ったから。お父さんもお母さんも、無理に会場に来ようとしてて、その、途中で」
必死に伝えてる途中、苦しさから息継ぎが上手く出来ない。ひく、としゃくり上げると練吾さんは困ったような顔で息を吐き出した。
「同じだな」
「え?」
「詩月も、いつも後悔してばかりだ。自分を責めて、いや、今も責め続けて生きてる。そうやって抱え込むところ、お前はやっぱりアイツに"も"ちゃんと、似てるんだな」
どこか呆れた様子で、練吾さんは私の頭をまた撫でる。ぐっと奥歯を噛んでその優しさに膨らむ瞼を必死に堪えながら「お願いします」と絞り出した。
「教えて、ください。お父さんのことも、お母さんのことも。ちゃんと知りたいの……」
逃げ続けるのは、もうそろそろ限界だ。「お願いします」と情けない声で繰り返す。頭を下げようとするのは遮られた。
「勘弁しろ」
「練吾さ、」
「お前"まで"、そんな苦しそうに俺に頭を下げるな」
「……え?」
目線を合わせたままの彼が放つ眼差しの鋭さに少し身体が強張る。
「『練吾は、絶対にその場所から動かないで。私のことを一生睨みつけて、永遠に許したりしないで下さい』前に、詩月にもそう頭を下げられた」
私の知らない記憶に触れながら言う練吾さんの表情には、憂いがあった。それは分かるのに、何故、母がそんな願い事をしたのかは全く分からない。もどかしさばかりが降り積もる。
「アイツは、俺にも相当な罪悪感を持ってる」
「……どうして?」
「死んだ真直は、俺の家族だったから」
放たれた言葉に耳を疑う。心臓の強い跳ね返りに痛みを感じながら、聴覚だけが先を急ぐように研ぎ澄まされてゆく。
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