episode05. 「        」

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 とっくに日は暮れて、夜へと向かっている。薄暗い景色で、車が次々走り抜ける二車線道路の向かい側なんて、障害物も多い。彼が本当にこちらを見ているかなんて、きちんと判断出来ない筈なのに、どうして私は目が合ったと思ってしまったのだろう。 「(そんなわけ、ないか)」  遠目でも分かる端正な顔立ちの人物は、未だに立ち止まっていたけれど、私は直ぐに顔を背けて春の厳しい向かい風を受けながら歩き始めた。 ◆ 「――じゃあ二軒目行きますか!」  一軒目の大衆居酒屋を出ると、グループ内の男子がほろ酔い顔で元気よく声を上げる。「賛成〜〜」と続く声の中には、私の友人達の声も混ざる。  今日の飲み会は、所謂"当たり"だったらしい。最初はどこか探り探りで始まった一次会も、ノリが良く、話題も豊富に出してくれる男子側につられるように、友人達の警戒心はみるみる解けていった。 「あ、私はそろそろ」 「え、詩月ジョーダンでしょ!?」 「行こうよお」  その集団の輪から抜け出そうとすると、甘くて高い声からは想像もできない強い力で、両腕を友人達に拘束される。 「詩月、雰囲気下がること言わないでって」 「お願い、二次会の途中でテキトーに抜けて良いから」 「ほら、詩月の向かいに座ってた横田君、詩月のことめっちゃ気に入ってるっぽいじゃん?」  男子達には聞こえないくらいのボリュームで圧をかけられて、へなっと情けなく笑みを漏らす。アルコールの充満した空気に、例に漏れず私も若干酔ってしまっている。お酒は得意では無いのに、彼女達の口から出た、その"横田君"とやらがやたらとお酒を勧めてくるので、結局摂取してしまった。
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