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上手くアルコールを分解出来ていないのか、頭痛もするし、出来ればもう帰りたい。――帰って、私はやりたいこともある。
「詩月ちゃん! 顔赤いね、酔った?」
笑顔で近寄ってくる横田君は、「大丈夫?」と言いながら私へと手を伸ばす。友人達も「詩月をお願いします」なんて全く頼んでいない言葉を置いて、早々に自分の気になる相手の元へ駆けていく。
「僕、詩月ちゃんみたいな純な感じ? 結構タイプなんだよなあ」
純な感じ、ってなんだろう。それは私に結び付かない。
みんな、勝手に人を結論づける。人を判断するものさしは全て自分達がどうとでも調整出来るところにあって、理想の押し付けなんてとても容易い。例え、事実がそうじゃなくても相手にそれを自然と強要出来てしまう。
そこまで考えて、ふと自嘲的な笑みが漏れる。
嗚呼、そうか。私が晒そうとしないんだから、――「本当の自分」を見つけてもらえる筈が無い。
「(自業自得、だ)」
納得しながらも、心も身体もそんな簡単には理解出来ないらしい。近づいてくる手に、こっそりと身を強張らせた私自身は確かに、「嫌だ」と訴えていた。
「――――"結構タイプ"くらいの分際で、この人に触らないでくれますか?」
その声は、とても穏やかだった。
そして賑やかで楽しい筈なのに寂しさを拭えないこの夜を、一瞬でいとも容易く塗り替えた。
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